IOM報告:3人に1人の移民が死亡の現実 紛争から逃れた移住の途上で
【ジュネーブ/ベルリン】国際移住機関(IOM)が2014年以来継続している「行方不明移民プロジェクト」が、10年の節目を迎えるにあたって報告書を発行し、過去10年間の移民の死亡と失踪について憂慮すべき傾向を明らかにした。
死亡が確認された移民のうち、出身国が特定できたケースの3分の1以上は、紛争下にあったり、難民を多く出している国の出身であり、紛争地帯から安全な移住ルートがないまま逃れようとする人々が直面する危険が浮き彫りとなった。
しかし、行方不明となった移民の身元情報はかなり断片的にしか判明しない。本報告書が明らかにしたのは、身元が分からず亡くなった移民の多さだ。死亡が確認された者のうち、3分の2以上は身元不明のままとなっている。移民の家族や周囲の人々は、消息の分からないまま愛する人を失う喪失感に悩まされており、家族に区切りを付けてもらうためにも、データ収集と身元確認プロセスのよりよい連携が求められる。
ウゴチ・ダニエルズIOM事務局次長は、こう述べる。
「身元が分からぬまま多くの移民の命が失われているにも関わらず、過去10年間で、5,500人近くの女性が移住ルートで亡くなった他、身元が確認された亡くなった移民の子どもも3,500人に上るとわかっています。最も弱い立場にある人々とその家族の犠牲に関するデータは、関心を向けるだけでなく具体的な行動に移すよう、私たちに促しています。」
『移民の死を記録する10年』と題された報告書は、2014年からの6万3,000人以上の死者及び行方不明者の記録を振り返るが、2023年には、10年間のうち最多の死亡数が記録された。この数字により、海上をはじめとする行方不明者の捜索や救助能力の強化、安全な正規の移住ルートの促進、そして、さらなる人命の損失を防ぐための証拠(エビデンス)に基づく行動が今すぐ必要だと明らかになった。加えて、密入国や人身取引を仲介する者の悪徳なネットワークを断ち切るために、国際連携の強化も求められている。
2014年に「行方不明移民プロジェクト」が始まった当初、ほとんどの情報はニュース記事から集められ、簡易なスプレッドシートにより管理されていた。それから10年経ち、データ収集の方法は劇的に改善されたが、危険な移住ルートを選択せざる得ない移民の現実は変わっていない。
現在、「行方不明移民プロジェクト」は、移民の死亡及び行方不明に関する唯一の世界的なオープンソースであり、政府や国連関係者、市民団体からの情報提供を含む幅広い関連データを編纂している。
【報告書の要旨】
- 最大の死因は溺死
報告される死因の6割近くは溺死で、地中海だけで2万7,000人以上の移民が命を落とした。海上での人命救助のために捜索・救助能力の強化や、より安全な移住ルートを促進するために各国政府との協力が重要。
- 移民の死亡数の過少報告
過去10年間に世界中で記録された6万3,000人以上の死者・行方不明者数は、おそらく実際のほんの一部に過ぎない。問題の全容を正確に見定め、危険な移住にまつわるより幅広い課題に対処するため、データ収集方法の改善が必要。また、性別や年齢に関する情報がない犠牲者が少なくとも3万7,000人いることから、女性や子どもの死者数は実際はもっと大きいと推測される。
- 犠牲者の増加傾向
移住にまつわる政治的な誓約やメディアの注目にもかかわらず、死亡する移民は増加傾向にある。2023年には1年間で8,500人以上の死亡が報告され、年間死者数が過去最高を記録した。憂慮すべき傾向は2024年も続いており、地中海だけでも、今年の入国者数は2023年の同時期(26,984人)に比べて大幅に減少(16,818人)する一方、死者数はほぼ同数のまま推移している。
- 政治的関心の高まり
関連する取り組みや文書の数は世界や地域規模、及び国単位でも増え、「行方不明の移民」への対策を促している。本プロジェクトで収集されたデータは、持続可能な開発目標(SDGs)で定められた安全な移住の達成への対策の進展(または不足)を示す指標として利用される。今年詳細が発表される予定の、国連事務総長による「安全で秩序ある正規の移住のためのグローバル・コンパクト」に関する2022年進捗報告では、移民の死亡を防ぐために政府が果たすべき重要な役割を明示すると共に、さらなる国際協調と人道支援へ向けた実行可能な提言を求めている。これは、今まさに進行する危機に対処するための地球規模のロードマップとなる。
5カ年の「IOMグローバル戦略計画 2024-2028」は、第一の柱として「移動する人々の命を守り、保護すること」を掲げるが、これはIOMだけの力で達成されるものではない。IOMは、命を落とす移民をなくし、世界各地の移住ルートで失われた何万人もの人命とその影響に対処するため、各国政府やパートナー機関に呼びかけていく。
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