「安全で秩序ある正規の移住のためのグローバル・コンパクト」(GCM)は、国連の下、初めて政府間交渉を通じて策定された、国際的な人の移動の全ての側面を総体的、かつ包括的に取り扱った合意です。
GCMに法的拘束力はなく、各国政府がその国の領土に入国・滞在すべき人を決める主権を尊重しており、移住に関する国際協力への取り組み目標を示しています。GCMは、国連加盟国が安全で秩序ある、正規の移住を促進するために国際的に協力するとした、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」目標10のターゲット10.7に一致するように作成されました。
GCMにより、移住ガバナンスが改善し、今日の人の移動(移住)に関わる課題が対応され、移民や移住による持続的な開発への貢献が強化されることが期待されています。
GCMの策定プロセスは2017年4月に始まり、2018年12月のモロッコ・マラケシュでの最終的な政府間協議を経て、国連総会によって採択されました。
Global Compact for Safe, Orderly and Regular Migration (国連事務局ウェブサイト)
安全で秩序ある正規の移住のためのグローバル・コンパクト(GCM)日本語版(IOM駐日事務所仮訳)
- GCM策定の背景と経緯
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2016年9月19日、移民と難民の大規模な移動の問題について協議するために、初めて国家元首レベルが参加して国連総会の枠組みで開催された、「難民と移民に関する国連サミット」において、「難民と移民のためのニューヨーク宣言」が採択されました。
- 難民と移民のためのニューヨーク宣言の要旨
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加盟国は、人の移動に対する包括的なアプローチと地球規模での連携強化の必要性を認識し、以下を目指すことを確認しました。
- 移住のステータスに関わらずいつでも、全ての移民の安全、尊厳、人権、そして基本的自由を保護する。
- 多数の難民・移民を救助し、受け入れ、滞在させている国々を支援する。
- 移民や受入コミュニティのニーズや能力に応えながら、人道・開発支援の枠組みや計画において、移民の社会統合を進める。
- 外国人嫌い(排外主義)、人種差別、全ての移民に対する差別と闘う。
- 国家主導のプロセスにより、困難な状況にある移民の取り扱いについて、法的拘束力のない原則や自発的なガイドラインを策定する。
- 移住のグローバル・ガバナンスを強化する。その一環として、IOMが国連の関連機関となり、難民と移民に関する課題に対応するための国際社会の取組方針となる「難民に関するグローバル・コンパクト」と「安全で秩序ある正規の移住のためのグローバル・コンパクト(GCM)」を策定する。
New York Declaration for Refugees and Migrants
難民と移民のためのニューヨーク宣言(日本語版)(国連広報センター訳)
GCM政府間協議の主要な内容とスケジュールは、Modality Resolutionで規定されました。GCMは、開かれた透明性のある包摂的なプロセスである協議や交渉、市民社会や民間セクターを含めた全ての関係者の効果的な参加により策定されました。
- GCMのねらい
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- 人道・開発・人権配慮等の、国際的な人の移動の全ての側面に対処する。
- グローバル・ガバナンスに大きく貢献し、国際的な人の移動に関する連携を深める。
- 移民と人の移動に関する包括的・国際的な枠組みを提示する。
- 国際的な人の移動に関する全ての側面において、加盟国間で実行可能な公約、実施手段、フォローアップや見直しのための枠組みを提示する。
- 持続可能な開発のための2030アジェンダ、アディスアベバ行動目標に従う。
- 「国際移住と開発に関するハイレベル対話」(2013年)の宣言を受けた内容にする。
GCMは、持続可能な開発目標(SDGs)の中でも、
特に目標10のターゲット10.7
「計画に基づきよく管理された移住政策の実施などを通じて、
秩序があり、安全で正規、かつ責任ある移住や人の移動を促進する」に貢献します。
- GCMの23の目標
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GCMは、一連の行動とともに、ベスト・プラクティスから導かれた、移住の全ての側面を網羅する23の目標を掲げています(全方位アプローチ)。政府がその国の移住政策を実施する際に、活用しうる目標です。法的拘束力はありませんが、GCMの指導原則と目標、行動は、「世界人権宣言」や「持続可能な開発のための2030アジェンダ」、国際法に基づいた確立された義務や原則を根底としています。
安全で秩序ある正規の移住のための目標
- 根拠に基づく政策立案の根拠となる、正確で分類されたデータを収集し活用する
- 移民が出身国を去らざるを得なくなる不利益な要因及び構造的要因を最小化する
- 移住のあらゆる段階において正確で時宜にかなった情報を提供する
- 全ての移民が法的な身分証明書と適切な書類を所持することを徹底する
- 正規移住への道筋の実現可能性と柔軟性を強化する
- 公正で倫理的な採用と労働者保護の条件整備を促進し、働きがいのある人間らしい仕事を保証する
- 移住における脆弱性に対応し、それを軽減する
- 移民の人命を救助し、行方不明の移民に関する国際的な取り組みを構築する
- 移民の密入国に対する多国間対応を強化する
- 国際的な移住における人身取引を防止し、対策を採り、撲滅する
- 統合され、安全で連携の取れた国境管理を行う
- 移住関連手続きにおいて適切な審査、調査、照会に関する確実性、予測可能性を強化する
- 移民の収容については最後の手段としてのみ利用し、代替策の策定に向けて取り組む
- 移住の全過程において、領事業務に関する保護、支援、協力を強化する
- 移民に基本的サービスへのアクセスを提供する
- 移民の包摂と社会的結束の実現に向け、移民と社会のエンパワメントを促進する
- あらゆる形態の差別を撤廃し、移住への理解を形成するために、根拠に基づく幅広い議論を推進する
- 技能開発に資源を投じ、技能、資格、能力の相互認証を促進する
- 移民とディアスポラが、持続可能な開発に十分に貢献できる環境を全ての国で創出する
- より迅速で安全で経済的な送金手段を促進し、移民が金融包摂されるようにする
- 安全で尊厳ある帰国及び再入国と可能な再統合の推進に向けて協力する
- 社会保障制度の受給資格を通算できる仕組みを構築する
- 安全で秩序ある正規の移住に向けた国際協力とグローバルな連携を強化する
- IOMの役割
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GCMは国連加盟国主導で策定されましたが、IOMは国際移住担当事務総長特別代表や国連諸機関との連携に基づき、策定プロセス全般において専門的知見を提供すると同時に、関連の協議開催を支援し、GCMドラフトの修文等にも協力しました。
GCMの能力強化メカニズムとフォローアップとレビューを含む、GCM履行のためのシステム全体の支援確立のために、国連移住ネットワーク(United Nations Migration Network)が設立されましたが、IOMは国連移住ネットワークのコーディネーターと事務局としての役割を果たしています。