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2020年版「世界移住報告書」発表

世界のメディアが移住の課題に多大な関心を寄せる中、検証を経て、かつ根拠に基づいた分析への需要はこれまでになく高まっている。IOMは移住を専門的に扱う国連関連機関として、世界中で移住に対するバランスの取れた理解を促進することを責務としてきた。
 
2019年11月のIOM総会において、アントニオ・ヴィトリーノIOM事務局長によって、IOMの旗艦報告書である『2020年版世界移住報告書』(WMR2020)が発表された。IOMはWMR2020を通じて、移住に関するよく調査・研究され、正確でアクセス可能な情報の提供という役割を引き続き果たしていく。
 
ヴィトリーノ事務局長は、「IOMには、人の移動の多様性と複雑性をわかりやすく説明する義務があります。」とIOM加盟国の代表者たちに話した。
 
「この報告書が示しているように、我々はより多くのより質の高いデータと情報を得ることで、昨今の不確実性が増している時代における、移住の基本的な特徴への理解を高めることが可能になっています。」と彼は述べた。
 
20年前に初版を公開したWMRは今回で10回目を数え、一連のWMRは移住に関する最新のデータと情報を提供するとともに、新たに出現する複雑な移住の課題についての分析を行っている。2018年版WMRは40万回以上ダウンロードされた。
 
報告書には、人の移動性や環境の変化、不確実な情報が広がる時代における移民の貢献、子どもの移住や危険な移住、移住と保健の関係などの項目が含まれている。これらは時機にかなっているだけでなく、専門家にも一般的な読者にとっても非常に関わりが深いものである。
 
在ジュネーブ国際機関マーシャル諸島共和国政府代表部のドリーン・デブラム大使は報告書の発表を歓迎し、「マーシャル諸島共和国はいま瀬戸際にあります。一つひとつの科学的論文は、母国が気候変動により、さらに深刻で重大な差し迫ったリスクと脅威、そして危険に直面していることを示しています。これはマーシャル諸島の人々全体を危険にさらす恐れがあり、おそらく国民の強制的な移住と国土の喪失という結果をもたらすものです。」と強調した。
 
また、ミヒャエル・フォン・ウンガーン=シュテルンベルグ・ドイツ大使は、移住は世界中のあらゆる社会で活発に議論される課題になったと指摘した。
 
「これはよい発展です。しかし、私たちは事実を間違って示すことや、過度に政治化するリスクに直面しています。WMRはこの非常に繊細な問題にかかわる建設的な議論や、大変必要とされている国際協力の土台をつくることに貢献するでしょう。」と彼は述べた。
 
この報告書はWMR2018の画期的な成功に基づいて執筆されたもので、世界中のIOM専門家や移住実務者、移住研究者が協働して多くの章が執筆された。
 
WMR2020の共編者であるマリー・マコーリフはこの協働関係の重要性を強調した。
 
「移住の最新の実情をとらえるために、テーマ別の章はその分野を牽引する研究者によって執筆されています。そして、報告書は著名な学者であるインドのジャワハルラール・ネルー大学のビノド・カドリア教授と共編されました。」と彼女は述べた。
 
「移住に関して基準となる主要な報告書として、質の高い貢献ができるよう、WMR2020の草稿は完成前に一流の移住研究者やIOMの各分野専門家からの査読を受けています。」
 
WMR2020はデジタル媒体のみで公開される初めてのWMRであり、これは報告書の作成過程においても、成果物についても、環境的に持続可能な素材を用いる必要性を考慮したためである。世界中の政治家、学者、移住実務家、ジャーナリスト、学生そして一般的な読者は、英語およびスペイン語の報告書を無料でダウンロードすることができ、他言語への翻訳も進んでいる。
 
これまでの報告書への批評が肯定的であるとすれば、WMR2020の公開は移住に対するグローバルな理解へのさらなる前進となる。学術分野では、WMR2018は研究者によって550本以上の査読付き出版物や論文に引用されてきた。ブログにおいては、WMRは移住に関する根拠のない主張の事実を確認するための主要な資料としても利用されている。また、図表やインフォグラフィックにより、様々な仕事の分野の読者が、データや情報を理解しやすくしている。
 
WMRの実務的なほんの一例として、ハーバード大学ジャクリーン・バーバ教授は「報告書の中のいくつかの章は、私の学生たちに新たな課題を紹介するのに最適です。この報告書は実によく書かれており、適切に調査が行われています。」と話す。
 
移住がこれまでにない関心を集め続ける中、移住に関する根拠に基づいた、質の高い調査への高まる需要に答えるという点で、WMR2020は重要な役割を担っている。同時に、世論や政治的議論に影響を与えようとする「フェイクニュース」や間違った情報の偽りを証明する手助けにもなる。

報告書(英文PDF)はこちらで全文ダウンロードできます