責任ある雇用の促進に向けたIOMとファーストリテイリングの取り組み
国際移住機関(IOM)は、世界的なアパレル会社である株式会社ファーストリテイリング(以下、ファーストリテイリング)と同社のサプライチェーンにおける移住労働者の採用と雇用条件を調査する新たなプロジェクトを開始した。
2019年9月に始まったこのプロジェクトは、労働現場の状況を明確にし、移住労働者の人権と労働権の保護に関するファーストリテイリングの取り組みを強化するものである。また、この活動には、日本やタイ、マレーシアにある同社の取引先工場も参加する予定である。ファーストリテイリング傘下のブランドには、UNIQLO、 GU、 Theory、 Helmut Lang、 PLST、 Comptoir des Cotonniers、 Princesse tam.tam、 J Brandがある。
グローバルサプライチェーンで働く移住労働者に対する搾取は、雇用斡旋業者からの過剰な費用の請求など、移住労働者が自国を出発する前から始まるケースが多い。IOMによれば、これにより移住労働者は大きな負債を抱え、搾取的な労働条件から逃れることが難しい状況に陥る。
IOMとファーストリテイリングはこのたび、同社の取引先工場における倫理的な採用の促進と、現代の奴隷制と人身取引に関するリスクの削減に協力して取り組むことに同意し、このプロジェクトを通じて、移住労働者が勤務するファーストリテイリングの取引先工場の雇用慣行に関する先行調査を実施する。合わせて、研修の実施などを通じて、性別を問わず、移住労働者が不当に扱われることがないよう、必要な規則や対策を各社の方針やガイドラインに取り込むよう働きかけを行う。
ファーストリテイリングは、公正労働協会(FLA)とアメリカン・アパレル・フットウエア協会(AAFA)が策定した「AAFA/FLA責任ある雇用に関する業界宣言」に署名しており、このIOMとの連携プロジェクトも、採用と雇用慣行の向上を目指すファーストリテイリングの取り組みに沿って実施される。なお、この業界宣言の中心となる原則は、「労働者が雇用手数料を負担しないこと」「雇用主でなく、労働者自身がパスポートを保持すること」「雇用契約の労働条件が明確で、実行され、きちんと守られること」とされている。同社は、IOM以外にも国際労働機関(ILO)と国連女性機関(UN Women)とも連携を行い、様々な活動を行っている。
ファーストリテイリング・サステナビリティ部部長のベロニク・ロシェ氏は、「IOMと実施するこのプロジェクトは当社にとって重要な第一歩である。商品の生産に携わる移住労働者の権利を守る持続的な枠組みを作るため、IOMとのパートナーシップを最大限に活用できることを楽しみにしている。これは、『AAFA/FLA責任ある雇用に関する業界宣言』の署名企業として、公正な労働慣行を規定する国際基準の達成を目指す当社の取り組みの一環で、これらの基準はファーストリテイリングが定めるコードオブコンダクトやその他のガイドラインにすでに反映されているが、今後も継続して管理体制の向上に取り組み、そこから得た知見を、ぜひ業界の他社とも共有したい。」と述べた。
アジアにおけるアパレル業界のサプライチェーンでは、農村部出身で技能の低い女性労働者も含め、移住労働者が重要な労働力となっている。「日本やマレーシア、タイに働きに来る人々の多くが、過剰な雇用斡旋料を要求する業者によって、負債に苦しむなど、強引な採用や搾取に対し脆弱な立場に置かれている。IOMと日本の大手企業とのパートナーシップは革新的であり、貴重な知見と成果が生まれるだろう。日本が多くの移民にとっての移住目的国となりつつある現在、IOM駐日事務所にとっても、日本の民間セクターとの連携を通じた移住労働問題への取り組みは非常に重要である。また、移住労働者の権利の保護は、ビジネスの方針や業務にも反映される必要があり、この点においても、IOMとファーストリテイリングのパートナーシップの成果が、国際サプライチェーンに関する日本のビジネス全体の意識向上に貢献できることを願う。」とIOM駐日事務所代表の佐藤は述べた。
なお、今回のIOMとファーストリテイリングの連携は、移住労働者の脆弱性への対応と持続的な解決を目指して、IOMが直接関わりながらビジネス界とのパートナーシップを構築している取り組みの一環で、IOMの「奴隷制と人身取引撤廃の企業責任(Corporate Responsibility in Eliminating Slavery and Trafficking: CREST)」と「国際採用統合システム(International Recruitment Integrity System: IRIS)」の2つのプログラムを通じて行われる。