人身取引(トラフィッキング)は犯罪であり、重大な人権侵害です。
世界中の男性・女性、子どもたちが、平時でも、紛争や災害の渦中でも、被害にあっています。国際移住機関(IOM)は、四半世紀に亘り人身取引対策を主導してきた実績があり、これまで10万人以上を直接支援してきました。
IOMは、人身取引対策という共通した目標のために、政府や国連機関、その他の国際機関、NGO、民間セクター、人権・平和・開発分野の関係者と、人道支援や開発協力の区別なく緊密に協力しています。
人身取引とは?
「人身取引」とは、だます、脅す、暴力をふるう、権力の乱用といった手段で、弱い立場にある人々を別の国や場所に移動させて、搾取することを言います。
一般的に、被害者の出身国は貧しく、受け入れ国は比較的裕福な国の場合がほとんどです。第三国を経由する場合や国内で取引される場合もあり、世界のほとんどの国が人身取引のプロセスの一部になっていると考えられています。
人身取引の被害に遭うのは、多くの場合、社会的に弱い立場に置かれ、合法的に移住することが困難な人々です。男性も含め誰もが被害者となり得ますが、特に非正規滞在の女性や子どもは被害にあうリスクが高いと言われています。
売春など性的な搾取や臓器摘出の場合、人身取引によって身の自由を奪われるだけでなく、暴力や感染症などのせいで生命の危険にさらされることも少なくありません。人権が保護されない劣悪な環境での強制労働なども含めた「現代の奴隷制」の被害者は5,000万人と推計されています。
なぜ、多くの人々が人身取引のワナにかかってしまうのでしょうか。人身取引はまず被害者の出身国で始まります。外国での魅力的な就職先の斡旋を装った「リクルーター」による勧誘、偽造パスポートなど違法な手段を用いることが多い目的地への移動、強制的な労働という一連のプロセスの中で、被害者は脅迫や暴力によって常に搾取を受けることになります。身近な人が人身取引に関わっている場合も多く、多くの被害者は自分自身が陥っている現実を自覚しないうちに人身取引のプロセスに引き込まれていきます。
人身取引(トラフィッキング)の定義
IOMは、『国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約を補足する人、特に女性及び児童の取引を防止し、抑止し及び処罰するための議定書(人身取引議定書)』 における以下の定義を採用しています。
「“人身取引”とは、搾取の目的で、暴力その他の形態の強制力による脅迫若しくはその行使、誘拐、詐欺、欺もう、権力の濫用若しくはぜい弱な立場に乗ずること又は他の者を支配下に置く者の同意を得る目的で行われる金銭若しくは利益の授受の手段を用いて、人を獲得し、輸送し、引渡し、蔵匿し、又は収受することをいう。搾取には、少なくとも、他の者を売春させて搾取することその他の形態の性的搾取、強制的な労働若しくは役務の提供、奴隷化若しくはこれに類する行為、隷属又は臓器の摘出を含める。」(同議定書第3条(a))
IOMの人身取引対策の対象者
人身取引の加害者は、紛争や自然災害などの影響で苦しい立場に追い込まれた人々の脆弱さにつけこみます。
また、人道危機が、従来の被害の傾向を悪化させるだけでなく、新たな人身取引の手口を誘発することもあります。
IOMの人身取引対策がめざすこと
IOM は、以下のような地域プロセスやより広い多国間プロセスに貢献することで、加盟国や主要な関係者が人身取引撲滅に取り組むように促しています。
反人身取引機関間調整グループ(ICAT) / 人道支援活動におけるグローバル保護クラスター 反人身取引タスクチーム / アライアンス8.7 / 持続可能な開発目標(SDGs) / 安全で秩序ある正規の移住のためのグローバル・コンパクト(GCM)
また、さらなる被害のリスクの防止と軽減のため、全ての危機対応において、人身取引を防止するための配慮がされるよう、他の人道支援団体とも協力しています。
包括的アプローチ
IOMの人身取引対策のアプローチは包括的です。人権を保護するため、被害者や潜在的な被害者、それを取り巻く地域社会の人々の心身とウェルビーイングを守ります。また、対策を持続可能な形にするために、支援機関の能力開発やパートナーシップの強化にも同時に取り組んでいます。IOM の人身取引対策は、主に8 つに分類されます。