人身取引(トラフィッキング)対策は、移民の性的搾取や強制労働など深刻な人権侵害に立ち向かう重要な活動です。 アジア地域では1995年の北京女性会議を契機に、メコン川流域国などでの活動が本格化しました。

 

人身取引とは

「人身取引」(トラフィッキング)とは、何らかの強制的な手段で、搾取の目的で弱い立場にある人々を別の国や場所に移動させることを言います。

一般的に、送り出す国は貧しく、受け入れ国は比較的裕福な国の場合がほとんどです。第三国を経由する場合や国内で取引される場合もあり、世界のほとんどの国が人身取引のプロセスの一部になっていると考えられています。

多くの場合、非合法的なルートを通じて行われるため、正確な数字は分かりませんが、毎年80万人が国境を越えた人身取引の犠牲となっていると言う報告もあります。

人身取引の被害に遭うのは、多くの場合、社会的に弱い立場に置かれ、合法的に移住することが困難な人々です。売春など性的な搾取を受けることが多い女性の場合、人身取引によって身の自由を奪われるだけでなく、暴力や感染症などのせいで生命の危険にさらされることも少なくありません。また、子どもたちが強制労働をさせられる被害も見られます。

人身取引というと、性的搾取のために若い女性や子どもが国際的に取引されることが一般的にイメージされますが、 実際には男性や大人が、強制労働や物乞い、臓器摘出のために犠牲となる場合も見られます。

なぜ、多くの人々が人身取引のワナにかかってしまうのでしょうか。人身取引はまず被害者の出身国で始まります。外国での魅力的な就職先の斡旋を装った「リクルーター」による勧誘、偽造パスポートなど違法な手段を用いることが多い目的地への移動、強制的な労働という一連のプロセスの中で、被害者は脅迫や暴力によって常に搾取を受けることになります。身近な人が人身取引に関わっている場合も多く、多くの被害者は自分自身が陥っている現実を自覚しないうちに人身取引のプロセスに引き込まれていきます。

人身取引には、多くの場合国際的犯罪組織や暴力団などが背後に関与していると考えられており、人身取引は武器取引と麻薬取引に次ぐ大きな資金源とされています。毎年数兆円の利益を上げていると言われます。

アジアは人身取引が頻発している地域の一つで、アジアの経済大国である日本は、主要な人身取引の目的国(受け入れ国)の一つです。

 

人身取引(トラフィッキング)の定義

『国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約を補足する人、特に女性及び児童の取引を防止し、抑止し及び処罰するための議定書(人身取引議定書)』 では、人身取引を以下のように定義しています。IOMもこの定義を採用しています。

「“人身取引”とは、搾取の目的で、暴力その他の形態の強制力による脅迫若しくはその行使、誘拐、詐欺、欺もう、権力の濫用若しくはぜい弱な立場に乗ずること又は他の者を支配下に置く者の同意を得る目的で行われる金銭若しくは利益の授受の手段を用いて、人を獲得し、輸送し、引渡し、蔵匿し、又は収受することをいう。搾取には、少なくとも、他の者を売春させて搾取することその他の形態の性的搾取、強制的な労働若しくは役務の提供、奴隷化若しくはこれに類する行為、隷属又は臓器の摘出を含める。」
(同議定書第3条(a))