2023年6月 ポーランド・プシェムィシル
35歳のイゴールは、67歳の母ナタリアとともにウクライナのザポリージャから逃れ、2023年3月にポーランドに辿り着きました。機械工であるイゴールは、ウクライナにとどまり仕事を続けるつもりでいましたが、戦争が長期化する中、母親の健康状態が悪化しました。爆撃の頻度が高まり、地域の医療センターに医薬品がなくなると、イゴールとナタリアは安全な場所を求めて、ウクライナを離れる決断に迫られました。
「私たちがいた場所から700m圏内にロケット弾が落ちました。それが最後の一押しとなったのです。」とイゴールは話します。
2人はドイツのハノーバーに向けて、ポーランドを経由するルートで移動することを計画しました。ナタリアの体調は、プシェムィシルに到着した夜にさらに悪くなりました。母親の状況を心配したイゴールは救急隊を呼び、ナタリアは近隣の病院に搬送されました。
医師たちによる検査で、ナタリアの腸に大きな腫瘍ができていることがわかり、緊急手術が必要でした。その後の検査によって、大腸がんであったことが判明しました。
プシェムィシルで2人は、この街を経由して移動するウクライナ人のための一時宿泊施設に滞在していました。収容人数が限られていたので、ここには48時間しか滞在できず、母親の体調が悪化していく中で、イゴールは寝泊まりする場所の確保に追われました。
「母はその時入院しており、私は一時宿泊所を出なければなりませんでした。次の滞在施設へ向かう途中に、路上でオックスファムのボランティアに出会いました。我々の状況を説明すると、彼女がIOMへ繋いでくれました。ここで頼れる人は、他にはいなかったのです。」とイゴールは振り返ります。
IOMで保護アシスタントを務めるレシアとサーシャは、ナタリアの療養のための施設を探すだけでなく、医薬品の購入、医療関係の必要書類の準備などを支援しました。また、イゴールの宿泊場所としてプシェムィシルの自治体が運営する滞在施設も確保しました。母親の看護のためにイゴールは働くことができず、彼は現在ポーランドで母親の法的後見人となるための申請をしています。IOMはこの2人に対してこの3か月、基本的な生活ニーズへの支援も行っています。
将来の計画について尋ねられると、イゴールはこう答えました。
「今何かを計画するのはとても難しいです。母の病気が深刻ですから。抗がん剤治療で苦しんでいますし、薬もとても高価です。向こう数ヶ月はポーランドにいる予定ですが、そのあとは彼女の健康状態を見てから決めることになります。」
将来がまだ不確実ではあるものの、ポーランドに適応するため、イゴールは週に3~4回ポーランド語の授業に通っています。日々の生活が安定し、何よりも母親の健康状態が改善することをイゴールは強く願っています。
ナタリアは最初の抗がん剤での治療を終え、これから6ヶ月間は治療を続ける予定です。
2人への支援は日本を始め、アメリカ、スイス、ノルウェー、韓国、英国、国連中央緊急対応基金の資金によって実施されています。