2023年6月 チェコ・パルドゥビチェ

 

チェコのパルドゥビツェ州に位置するウクライナ避難民のためのコミュニティセンターでは、イベントが始まる1時間以上も前から、午後のコーヒーを片手におしゃべりを楽しむ人々が集まり始めています。

故郷の近況を知らせ合っている女性たちがいます。戦争が始まってから、多くの女性たちは夫や家族をウクライナに残してきました。チェコ語の教室でめきめきと語学が上達している人もいますし、個人的なカウンセリングを受けるために待っている人もいます。

カリナ・コミュニティセンターでコーディネーターを務めるマリナさんは、言います。

「ここには、最初は何もありませんでした。イベントをするための場所すらなかったので、地元の人たちが提供してくれたパブリックスペースを使わせてもらうことになりました。」

マリナさんは4年前にウクライナを離れ、チェコに移住してからは、英語の教師として働いていました。戦争が激しくなった昨年、ウクライナ避難民のための支援センターで通訳のボランティアを始め、「3カ月も経つと、自分が人を助けることにとても向いていることに気付きました。」と、その役割に愛着を持つようになりました。

カリナ・コミュニティセンターでは、カウンセリングや通訳、事務手続きなどさまざまな支援を提供している Photo: IOM/Anna Pochtarenko

その数ヶ月後、コミュニティセンターで常勤の仕事に誘われると、マリナさんは人を助ける仕事を続けられると強い喜びを感じました。「ここは私の全ての想いが実現する場所です。そして、人々の生活や人生に大きな影響を与えることが出来る、私にとってとても重要な仕事です。」といいます。

IOMチェコ事務所の支援を受け、カリナ・コミュニティセンターは、子どもを含む避難民へのカウンセリングや翻訳、ビザ対応、診療の予約などさまざまな支援を提供しています。しかし、こうした事務的な支援はセンターが目指す活動の一部に過ぎません。

「このセンターが特別である所以は、私たち自身が、人と人が繋がるコミュニティを作った成果です。利用者が交流し、よい時間を一緒に過ごし、仲間を作るための場所なのです。」とマリナさんは強調します。

彼女は、最初に主催したイベントでの苦労を思い出します。当初4人のチームメンバーは互いにこの事業に加わったばかりでしたが、2日も経たないうちに、ピクニックの企画を行うことになりました。マリナさんは、時間的制約からあまり成果に期待していませんでしたが、結局80人もの参加がありました。

カティアさんとマリナさんは、チェコで居場所と天職を見つけた Photo: IOM/Anna Pochtarenko

マリナさんは、刺繡のシャツがよく似合うカティアさんについて、こう話します。

「センターの利用者が自発的に、子どもや若者向けに3時間ほどのワークショップを行ったのが彼女との出会いでした。今では、子どもたちからも、私たちからも愛される存在です。」

カティアさんはかつて、ウクライナ南部のミコライウで、1歳から16歳の子どもたちを対象にした発達支援センターを2カ所運営していました。街にミサイル攻撃が迫った時、彼女はコイントスで留まるか離れるかを決めたといいます。

「私たちは全てを残して車に飛び乗りました。衝動的に決めましたが、留まろうと考えていた場所はすぐに攻撃され、すぐに正しい選択だったと分かりました。」と彼女は振り返ります。

カティアさんは、補助教員兼カウンセラーとして、カリナ・コミュニティセンターに加わった Photo: IOM/Anna Pochtarenko

カリナ・コミュニティセンターの中心的なメンバーとなってから、カティアさんは利用者に教育的な活動やレクリエーションを提供しています。特に、彼女が主導した「女性クラブ」については誇らしく語ります。

「私たちは、一人ひとりの個人的なニーズを理解し、どのように寄り添うか考えています。ここは、コーディネーターも含めて、お互いに与えたり受け取ったり、励まし合ったり、成長を助け合ったりする場所です。」

利用者の女性たちは、今では美容に関する知識を教え合ったり、ダンスを教え合ったり、人生全般に関するアドバイスをし合ったりしています。

「女性クラブの参加者は、お互いをやる気にさせます。私たちは皆、それぞれに隠れた才能を持っていて、機会さえあれば皆がそこから学ぶことができるのです。」とカティアさんは話します。

マリナさんは、センターに来る度にコミュニティの力を実感するといいます。数週間前、子ども向けスペースの壁を梯子なしで塗装しようと四苦八苦していると、近所の人がやってきて、自己紹介が始まりました。

「その30分後には、奇跡的に梯子を借りることが出来ました。何かをするのに、わざわざコミュニティの外で探す必要はないのです。身近に助け合い、共有し、貢献したいと思っている人がいるのですから、それを受け取るのです。」と彼女は言います。

カティアさんは、交流と支援の場であるセンターでの仕事に誇りを持っている Photo: IOM/Anna Pochtarenko

カリナ・コミュニティセンターの備品はアメリカ合衆国政府の支援で揃え、コミュニティ・ワーカーの多文化研修は日本政府の支援を受けて実施されました。