2023年5月 チャド・モウンゴロ/コーフローン
自分の国に戻ることが、こんなに大変だとはハワは考えてもいませんでした。
農業を営むハワは60歳。近くでみつけた木の枝やわらで、寝場所を間に合わせで作りました。戦禍のスーダンを逃れ、ハワやその家族をはじめとした数千人は、チャド東部モウンゴロにたどり着きました。ハワはチャド生まれですが、ここ20年はチャド国境から2時間ほどのスーダン西部の小さな村、ジメルザで暮らしてきました。しかし、戦火が迫り、国境を超えて避難せざるを得なくなりました。
「必要最低限のものをロバが引く荷車に乗せて、何時間も歩きました。」とハワは言います。チャドに着くと、モウンゴロの避難所に留まりました。
2023年4月15日以降、スーダンでの武力衝突により国連職員を含む500人が死亡し、43万4,000人が国内や国境を超えて避難を強いられているとみられています。1,400キロメートルにも渡るチャドとスーダンの国境を越えて避難する人々は、1万2,500人に上ります。チャド出身でスーダンに何十年も暮らしていた人々は、長年離れていた故郷と言えない故郷で、新たに生活を立て直す困難に直面しています。
IOMチャド事務所によると、スーダンからやってくる人々のうち少なくとも8人に1人はチャド人の帰国者です。アン・カトリン・シェーファーIOMチャド事務所代表は、「政府と連携して身元確認を進めていますが、これまでの調査によれば多くがチャド人の帰国者です。」と説明します。
スーダンとの国境地域にあるチャド東部のワダイ州コーフローン村には、19歳の青年アリがいます。アリとその家族は、もともとはチャドの国境地帯ボロコラ村出身ですが、覚えているだけの長い間、スーダンのテンデルティに暮らしてきました。
「チャドに親戚の集まりでときどき行くことはありましたが、生活や仕事は全てスーダンにありました。全て置いてきてしまったので、雨季が迫っていることもあり、スーダンでの財産やチャドにいる自分たちがどうなるかとても心配です。」と彼は言います。ハルツームで戦闘が始まったとき、アリはいずれ戦火が家族にも迫ると判断し、避難を決断しました。
ハワやアリ、そして数多くの移民たちはスーダンでの武力衝突によって不安定な状況に置かれ、放っておかれる危険があります。
帰国者は、受け入れ国との社会的なつながりがあることから、あまり注意を払われません。しかし、ここ最近のスーダンでの出来事に影響を受けている全ての人々と同様に、こうした帰国者も人道支援と保護を必要としています。チャドとのつながりがあるとはいえ、彼らもまた数十年と母国を離れて暮らしており、家族との再統合や新しい生活を再建するために支援を必要としています。
戦闘が継続する中で、ハワやアリ、そして他の数千人の未来ははっきりしないままです。チャド東部は今回の武力衝突以前から40万人以上のスーダン難民を受け入れており、その需要は高まるばかりです。さらに多くの人々が到着することで、すでに困難な状況がさらに悪化することが懸念されています。迫りくる雨季も懸念材料の一つです。チャド東部の道路状況の悪化によって人道支援の提供が遅れることが懸念されています。
IOMはチャド政府、および人道支援団体へのサポートを危機の当初から継続しており、帰国者を含む困難な立場に置かれている全ての人々が、人道支援の対象となるように活動しています。ハワやアリなどの帰国者の登録や身元確認の支援のためにIOMは人員を派遣しており、必要な場合に人々の命を救う緊急支援がすぐに届けられるように、全てのパートナーと連携しています。
シェーファーIOMチャド事務所代表は、「国や地方政府と連携して、多くの人が避難を強いられている状況に迅速かつ確実な対応ができるよう、IOMは活動を継続しています。」と話しました。