2023年8月 エチオピア・トグワチャレ
「エチオピアからサウジアラビアに行って働けるだなんて旨すぎる話ですが、私は約束を信じて行きました。彼らはたったの7日間だと言いましたが、7日後の今日、私の体は3発もの銃弾を受け、目的地の近くにもいないのです。」
そう語るのは、エチオピアのオロミア州アルシ出身の学生 ハリマ(仮名)さんです。
ハリマさんは、他の多くのエチオピア人と同じようにより良い仕事の機会を求め、ソマリアを経由してアラビア半島に渡り、さらにはイエメンを縦断し、サウジアラビアやその他の湾岸諸国を目指す、危険な「東方移住ルート」での移住に勧誘されました。彼女は、このルートの近隣諸国の情勢不安や紛争について、何も知りませんでした。
ハリマさんの1週間の試練は、彼女が故郷から約660キロ離れたハラール州へ移動したところから始まりました。友人から紹介された密入国仲介人が、150人以上もの人々をトラックに詰め込んだ時、彼女はもう引き返せないと思いました。希望と恐怖がないまぜな気持ちで車に乗り、トグワチャレの町を通って、エチオピアとソマリアの国境を越えました。
ハリマさんは語ります。
「車に乗っていた日々は何週間にも感じました。食べるものはなく、飲むものもほんの少ししかありません。事態が悪化したのは、その密入国仲介人と見知らぬ武装集団との間で銃撃戦が始まったときです。私たちの車はコントロールを失い、横転しました。すべてがあっという間の出来事で、気がついた時には、私は手、腰、そして脇腹から出血していました。」
密入国仲介人は、ソマリアにある次の降車地点に辿り着かなければ、トラックの中にいる移民を移送した分の報酬を受け取れないので、移民たちにトラックに戻るよう説得しました。しかし、何発もの銃弾を受けていたハリマさんは、銃撃戦後、他の移民たちと逃げ出しました。
怪我をしていた上、空腹で疲れ果てていたハリマさんと他の移民たちは、逃げたあと助けを求めて歩き続けました。何時間も歩いた末、幸運なことに1台の車と出会い、その運転手が彼らをエチオピア国境まで送り届けてくれました。彼女は最終的に、エチオピアとソマリアの国境にあるトグワチャレの町にあるIOMの移住対応センターに運ばれ、すぐに医療支援を受けることになりました。
エチオピアとソマリアの国境からわずか17キロに位置する重要な経由地であるトグワチャレの移住対応センターは、エチオピアからソマリア経由で湾岸諸国に渡ろうとする何千人もの移民にとって重要な役割を果たしています。弱い立場にある移民の命を救うために、センター内での対応やパートナー組織への紹介を通じ、エチオピア政府の取り組みを補完しています。移民たちは出身地に戻ってからも長期的な支援を受けることができます。
2019年以来、トグワチャレの移住対応センターは3,700人以上の移民を支援し、そのほとんどが切実に人道支援を必要としています。国際移住機関(IOM)は、エチオピアで利用される危険な移住ルート沿いに5つのセンターを運営し、困難な状況にある移民を見つけ、彼らが切実に必要とする人道支援を受けられるようにしています。
IOMエチオピア事務所で移住保護を担当するバウェレ・チャリム プログラム・マネージャーは言います。
「2022年だけで、推計14万8,000人ものエチオピア人が、より良い雇用機会を求め、危険な『東方移住ルート』でほとんどが非正規に移住したとみられています。彼らの多くは、その道中のあらゆる局面で暴力や搾取、虐待に晒されており、緊急の対策と長期的な支援の両方が求められています。」
ハリマさんは現在のところ、健康の回復に努めていて、この試練を生き延びた幸運を噛み締めています。
「今は自分自身を治すことが先決です。私が経験したことを周囲には勧めません。回復したら家に帰り、学校に戻り、より安全な機会を探していくつもりです。」
移住から帰国する人々の要望に応えるIOMの人道支援や保護活動は、2022年に発表された「アフリカの角とイエメンにおける地域移民対策計画(MRP)」に沿ったものです。これは、アフリカの角に位置するソマリア、ジブチ、エチオピアからアラビア半島のイエメンを結ぶ「東方移住ルート」に沿って、弱い立場にある移民とその受け入れコミュニティのニーズに対応することを目的としています。
MRPの下、IOMの「東方移住ルート」への対策は、当該地域の移民のニーズに対応するために、人道支援パートナーたちと協力する仕組みです。各地の移住対応センターも、MRPに基づいた支援の一つです。MRPに説明されているIOMの支援活動は、緊急の資金提供がなければ停止しなければならない危機に瀕しています。この支援を継続するため、IOMは2023年2月、8,400万米ドルの支援を呼び掛けています。