2023年8月 アイルランド・ダブリン
耳をつんざくような音を立てる貨物機に乗り、命からがらカブール国際空港から飛び立つ時、ラティファさんは強い衝撃の中で目を見開いていました。800人の同胞と肩を寄せ合い母国から逃げ出したその「運命の日」は、すでに2年前のことですが、彼女の記憶に永遠に刻まれています。
その後、2021年8月にアフガニスタンで事実上の新政権が誕生して以降、国外へ避難を求める人々が滑走路を離陸しようとする航空機にしがみつく壮絶な映像を目にして、ラティファさんは自分が安全に国を離れられたのがいかに幸運であったかを思い知りました。
法律の専門家であるラティファさんは、様々な人道支援団体や政府機関でキャリアを積んできました。その頃は、アフガニスタンでも、女性が自由に移動し、そしてキャリアを追求できたのです。
彼女はこう語ります。
「私たちは、アフガニスタンで懸命に働きました。すべての女性と少女が勉強したり働いたりすることができました。平和に暮らしたいと願っていましたが、すべてが変わりました。ある日突然、何もかも失ってしまったのです。」
政変前に国内の情勢が悪化していると耳にしたラティファさんは、家族の安全のために、両親に幼い息子・ベンヤミンくんを託し、3人に首都を離れて故郷へ疎開させるのが最善であると決断しました。家族と離れるのは胸が張り裂ける思いでしたが、結果的に、この決断が家族の無事に繋がりました。
「両親と息子を守るため、彼らには故郷で暮らしてもらい、私は兄弟と一緒に首都カブールに残りました。その頃は、とてもストレスを感じ、落ち込んでいました。」
タリバンが政権を掌握した日のことは、ラティファさんの脳裏に刻まれています。何が起きたのか知った時、彼女は仕事中でした。
「その日、警備員がオフィスに来て、私たち全員に逃げるよう伝えました。皆がショックを受けていました。」
個人的な書類を自宅に取りに行きたかったのですが、一帯はすでに監視下にあり、危険過ぎることでした。政府の要職に就いていたラティファさんは特に危ない立場にありました。自宅に帰ることなく友人の家に避難し、そこで1週間、身を潜めました。
ラティファさんは振り返ります。
「タリバンが、人がいないかと毎晩ドアをノックしてきたので、とても緊迫していました。大きなカーテンでいつも窓を閉ざしていたのを覚えています。その期間、太陽を見ることはありませんでした。」
ラティファさんは国際人権団体にコンタクトを取り、支援を取り付けました。それから用心して空港に向かい、彼女の命を救ってくれる人々に迎えられました。
母国を逃れ、息子と家族を置き去りにすることは、信じられないほど辛い経験でした。
「私にとって、とても難しい決断でした。あの瞬間、一人アフガニスタンを離れて自分の命を守るか、あるいは支援の手を拒むか、どちらかを選ばなければならなかったのです。そして『死んでしまうよりは、生きている母親の方がよい』という考えに至りました。タリバンの下では、将来の行方がわからなかったのです。」
安全への旅は、長く疲れるものでした。最終的な目的地に到着するまで、飛行機はいくつかの国に立ち寄らなければならず、長時間の移動の間は、わずかな食料しかなく、ひどい寒さを耐えねばなりませんでした。
彼女はこう言います。
「自分の未来が見えないと、とても不安です。どこに行くのか、どんな生活が待っているのか、わからないのです。」
最終的にアイルランドに到着し、一時的に難民キャンプに身を寄せるようになっても、家族や仕事、文化を国に置いてきた痛みはなお深く感じられました。何よりも、息子がひどく恋しくて、無事に再会できる日を夢に見るほどでした。
難民キャンプに滞在中、ラティファさんはアフガニスタンから息子を呼び寄せるための支援を根気強く求めました。その過程は長く困難で、膨大な計画と書類づくりが求められました。そしてとうとう、IOMアイルランド事務所の「家族統合プログラム」の支援により、小さな息子と再び共に暮らすというラティファさんの夢は現実のものとなったのです。
何か月も離れ離れに過ごした期間を経て、彼女はアイルランドのダブリン空港で、ついにベンヤミンくんを抱き締めました。この支援に携わった関係者が一様に感動に包まれた、忘れられない瞬間でした。
IOMの「家族統合プログラム」は、異なる国に住む家族を一緒にする手助けをしています。2007年から2021年までに、IOMアイルランド事務所は1,000人以上の人々の家族との再統合を支援しました。現在は、アイルランド赤十字社(IRC)との連携で、約30人がアイルランドで家族と再統合できるように支援しています。
ラティファさんの両親もアフガニスタンを離れ、無事に別の国へ避難しました。彼女はアイルランドで自分の生活を少しずつ建て直し始めています。新しい文化や言語に順応し、異なる言語を学ぶのは容易ではありませんが、今では息子と一緒に、他の女性たちとシェアハウスで暮らしています。ベンヤミンくんは学校に通い、新しい友だちを作っています。
「今は安全です。家族も無事で、息子もいて、安心しています。」
彼女は当座の仕事に就き、今後、平和構築の修士号を取得したいと考えています。ラティファさんは、アフガニスタンで暮らす女性たちの明るい未来を願って、自分のような人々を助けたいと考えています。
「私の目標は、いつかアフガニスタンに戻り、人権を守る人たちと共に働くことです。」
それまでラティファさんは、ベニヤミンくんと過ごす充実した時間 ― 一瞬一瞬が決して当たり前ではない贈り物 ― を、楽しんでいます。