ケニア JPOの強みを生かし、干ばつ被害対応や紛争予防支援に従事 2023年1月
IOMケニア事務所 緊急・安定化支援担当官Emergency and Stabilization Programme Officer
山口 香穂(やまぐち かほ)
プロフィール
大学卒業後、1年間の米国留学を経て、大手コンサルティング会社に就職。国際協力の現場での事業評価に従事した後、IOMケニア事務所でのインターンを経験。英国大学院にて修士号を取得後、国際NGOでの勤務を経て、2020年度JPO試験に合格。現在JPO3年目。
(2023年1月インタビュー実施)
Q(IOM駐日事務所):国際協力の現場で働きたいと思ったきっかけはありますか
A:両親の仕事の関係で、幼少時はいろいろな国で暮らす機会がありました。香港に住んでいた5、6歳の頃、東南アジアに旅行に行った際に、自分と同い年くらいの女の子がたった一人で街で物売りをしている場面を目にしました。この理不尽な格差をなんとかしたいと思ったことがきっかけです。中学時代に書いていた日記にも「将来は国際機関で働きたい」と書いていましたし、大学時代にはより具体的に移民や難民に関わる仕事をしたいと考えるようになっていました。
Q:JPOとして勤務を開始するまでのキャリアについて教えてください
A:日本の大学を卒業し、米国への1年間の留学を経て、帰国後は大手外資系コンサルティング会社に就職しました。主に日本の省庁や市町村、国際協力機構(JICA)などの公共機関へのコンサルティングを3年間半ほど担当しましたが、そのなかで、JICAがバングラデシュで行った送電網施設の建設事業の事後評価をする機会をいただきました。その際、経済協力開発機構(OECD)の開発援助委員会(DAC)が作成した新しい国際基準に沿ったODA評価を経験することができ、これからもこういう仕事をしていきたいと思うようになり、IOMケニア事務所でのインターンに申し込みました。
3カ月間のIOMでのインターンを終了した後、イギリスの大学院にて移民について包括的に学び、修士号を取得しました。卒業後は難民を支援する国際NGOで勤務しながら、JPO試験を受験しました。
Q:JPO試験を受けるにあたり、どのようなことを意識していましたか
A:大切なのは一貫性だと思います。私はコンサルティングファームでもNGOでも事業評価の仕事をしていましたから、志望ポストを決める際にも、志望動機を書く際にも、事業評価に関わる内容であることを意識していました。経験を積んできたから、すぐに実践で生かせるということを伝えて、1回目の挑戦で合格をいただきました。合格後はいろいろな調整があって、事業評価ではなくプログラムのマネージメントを行う現在のポストになりましたが、結果的には自分の幅を広げることに繋がったのでとても良かったと思っています。
Q:試験のなかで、印象に残っていることはありますか
A:面接官が外務省の職員の方だったり、元国連職員の方だったりしますので、自分が面接に来ているのに、もっと面接官の方の経験を聞きたいと思ってしまいました。面接自体は圧迫面接でもなく、とても和やかにお話していただきました。
Q:派遣先としてIOMを選んだ理由を教えてください
A:もともと、難民や移民に関わりたいという気持ちが強く、インターンも経験させていただいたので、IOMを選びました。現在は3年目に入ったところですが、日に日に「IOM愛」が強くなっています。同僚も優しいですし、競争というよりも協力し合う雰囲気がありますので、楽しく仕事をさせていただいています。他の国連機関と比べて、IOMの特徴は自由度が高くて職員間の関係性がフラットなところにあるのではないでしょうか。インターン時代も自分の意見を求められたり、責任ある仕事を任せたりしていただけました。
Q:ケニア事務所ではどのような仕事に従事していますか
A:現在は2つの部署の責任者を務めています。1つは緊急支援を担当する部署で、紛争などの人的災害や自然災害への対応をめぐる調整や、政策支援をしています。例えば、災害への対応をめぐる政策にもっとジェンダーへの配慮を反映させるための支援をしたり、政府が作るシェルターの支援をしたりしています。また、ケニアでは現在、干ばつが深刻な状況にあるので、干ばつに対するIOMの支援方針を決めて、そのための資金集めもしています。
もう1つの部署は、気候変動と人の移動に関する部署です。気候変動によって移動を強いられる人の支援や、それを予防するための支援を行っています。気候変動や防災に関連する政策に「人の移動」という観点を盛り込むための支援もあれば、水を求めて移動するのを防ぐために壊れている井戸を修理したり、遊牧だけに頼らずに生きていけるようにするために農業や漁業などの職業訓練も提供しています。また、新しく始まったプロジェクトですが、これからは資源をめぐる紛争の予防や解決にも関与していきたいと思っています。ケニアは遊牧民が多いのですが、家畜を守るために武装をしていますし、家畜に食べさせる牧草をめぐって争いも起きています。現在はどの地域にどういったアプローチが可能かというアセスメントを行っていますが、これからは対話を促すなどの取り組みを強化していきたいと思っています。
Q:JPOならではの強みや課題を感じることはありますか
A:JPOは原則2年間の派遣期間が保障されていて、3年目の延長の可能性もあるので、責任ある役職を任せやすいと思われているのではないでしょうか。通常の国際スタッフだと、プロジェクトの予算に契約期間も紐づけされているので、3か月であったり6カ月であったり、短い期間しか保障されていないこともあります。JPOはその心配がなく仕事ができるので、それは強みだと思います。
また、日本大使館の方や日本人JPOで定期的に集まる機会があるので、出身国政府や他のJPOとの繋がりも強くなります。情報交換もしやすいですし、日本政府にIOMの事業への資金拠出を求める際にも連絡がしやすいです。
IOMは特に、JPOへの支援が他の機関に比べて手厚いように感じています。昨年9月にも、世界中のJPOを集めて、ジュネーブの本部で1週間の合宿が開かれました。IOMの幹部がJPOにいろいろとお話をしてくださるのですが、JPOを育てようという気持ちを感じることが出来ました。
Q:今後のキャリアについてどのように考えられていますか?
A:IOMで移民の支援に関わっていきたいという軸がぶれることはありませんが、働く地域やプロジェクトについては、もっといろいろな経験を積んでいきたいと思っています。もちろん、現在携わっているプロジェクトのマネージメントや気候変動に関する仕事はとてもやりがいがあるので、これを続けていきたいとも思っていますが、将来的には地域事務所や本部での勤務にも挑戦してみたいです。
Q:私生活とのバランスはどのように取られていますか
A:2つの部署を掛け持ちしているのでマルチタスクではありますが、土日はしっかり休めています。ケニアは治安があまりよくないので車で移動していますが、例えばサファリに行ったり、スポーツを楽しんだりすることもできます。
私生活に関しては夫のサポートも大きいと感じています。夫はコンサルティング会社時代の元同僚ですが、JPOに申し込んだ時点で夫も会社を辞めて、現在は完全リモートワークが可能な日本のスタートアップでフルタイム勤務をしています。そのおかげで一緒に暮らすことができていますので、非常にありがたいです。
Q:これからJPO試験に挑戦する人へのメッセージをお願いします
A:これまで自分が取り組んできたことを、ストーリー性を意識して、一貫性を持って伝えることで合格への道が拓けます。また、面接の練習はした方が良いでしょう。身近な人に聞いてもらったり、自分で録音したりしてみてください。書類の準備は、日本語と英語の書き方の違いを意識してみると良いと思います。日本語だと謙虚な書きぶりになりがちですが、それをそのまま英語にすると自信がないように聞こえてしまいます。英語の資料は自信を持って書くという風に、書き分けをすることが大切です。私も含めて、JPO経験者は個別の相談にも気軽に乗ってくれると思いますから、何かあれば身近なJPO経験者に相談してみるものいいかもしれません。頑張ってください。