移住(入国)前保健活動は、IOMによる移住管理サービスの中で最も確立した支援の一つで、移民の受入国政府からの要請に基づき、正規の移住を対象に次のような目的で実施しています。

  • 各国の法律や国際保健法制に則り、公衆衛生上懸念される疾患や移民の健康状態を特定する。
  • 移民が入国前、渡航、入国後を通して継続した医療ケアが受けられるよう支援する。
  • 移民が安全に渡航できる健康状態になるよう支援する。
  • 渡航を控えた移民の健康増進・治療を支援する。
  • 人の移動に関わる公衆衛生上の懸念を最小限に抑える。

上記の観点から、IOMは移住前保健活動を通して、様々なスクリーニング、臨床診断、治療、健康増進活動、渡航支援等を提供しています。これらの支援は主に、第三国定住をする難民、国際移住労働者や短期ビザ・永住申請者、特定の移民支援プログラム対象者、緊急事態後の移転や再統合を余儀なくされている人々、などの移民を対象に行っています。多くの場合は渡航(入国)前に行っていますが、査証の更新等の関係で入国後に行われることもあります。(例:スリランカの入国後健康スクリーニング)

各国の移民政策と実務の違いに応じて、入国前健康スクリーニングの要件や手順には相違があります。しかし、移住の過程で移民と受入れ社会の人々の健康を損なってはならない、という移住前保健活動の基本理念は変わりません。

IOMは移住(人の移動)の課題を専門的に扱う国際機関として、移住前保健活動の主な受益者である移民、加盟国政府、国際社会とともに、移住に関わる健康の問題に取り組んでいます。適切な技術を用い、各国の法律や国際保健法制を遵守しながら、入国前健康スクリーニングを滞りなく効率的に実施しています。各国の公衆衛生政策、医療システムに則り、加盟国政府・医療従事者・関係機関と協力しながら、移民のおかれている状況や健康状態に応じて、有益で公平、そしてアクセス可能な入国前健康スクリーニングを提供しています。

※IOMの保健部門は、移民への保健支援や加盟国政府や医療従事者の能力強化を通じて、グローバルヘルス目標の達成に寄与しています。特に移住前保健活動は世界保健機構(WHO)の「ストップ結核パートナーシップ」や「持続可能な開発目標3」(SDG 3 - あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を推進する)に 貢献しています。

移住前保健活動とは?

状況や移住の形態、各国の指導に応じて、以下のような医療・保健活動を行っています。

  • 医療・予防接種情報の確認
  • 病歴聴取
  • 医師の診察
  • 精神保健の確認
  • 放射線・臨床検査診断
  • カウンセリング
  • 専門医への紹介
  • 保健教育
  • ワクチン接種
  • 結核治療、または適切な医療機関への紹介
  • 疾病サーベイランス
  • 渡航直前健康チェック
  • 診療情報作成
  • 医療情報保護に配慮した安全な診療情報の共有
  • 医療搬送を含めた渡航支援

マレーシア クアラルンプールの移民健診センターでの採血 © IOM 2018

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タイ バンコクの移民健診センターにて、IOMの医師が胸部レントゲンの読影結果を診断 © IOM 2018

  

移住前健康活動の役割 移民

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ケニア・ナイロビ 移民健診センターでのIOMの看護師によるカウンセリング © IOM 2020

移住前保健活動は、移民・難民の健康や受入れ地域の公衆衛生を損ねる懸念のある健康状態に対し、出発前に健康増進や疾病治療を開始する機会を与えるものです。

健康で安全な人の移動を支援するために、移民の健康状態を診断、必要に応じて治療を開始、渡航前・渡航中の医療アシスタンス提供、渡航後の治療継続のサポートなどの支援をしています。

特に移住前後に医療ケアが必要な場合、受入れ国側の医療システムへの橋渡しの役目も担っています。例えば、患者である移民の了承を得たうえで、第三国定住プログラム等の受入れ機関に医療情報を渡航前に共有しています。事前に情報共有することで、移民が渡航後にすぐに継続的な医療ケアや必要なサービスを受けられるようになります。また移住前保健活動を通じて、保健教育やカウンセリングサービスを提供し、移民の健康増進・疾病予防に貢献しています。 

※移住前保健活動は、渡航先の受入れ地域に移民が円滑に統合できるよう支援するなど、移民本人・受入れコミュニティ側の健康・公衆衛生増進に貢献しています。

移住前保健活動のサービス

放射線や臨床検査の高度な診断技術を用いて移住前保健活動を行っています。

IOM遠隔画像診断センター ・IOM臨床検査センター

IOMは遠隔画像診断センターを2つ運営して、遠隔読影・放射線診断の品質管理・規格化と画像診断の質の向上を図っている © IOM 2018

  

IOMは26カ所の臨床検査センターを運営し、外部の臨床検査センターとのネットワークを構築している © IOM 2018

 

数字で見る活動(2019年)

移住支援統計

ここでいう移民にはさまざまな査証申請者、移住労働者他、自発的に移動する人々を含む。他方、難民は、2020年7月2日付「1951年国連難民条約データ」の定義による。

IOM 移住保健情報部門の取り組み

IOMの移住保健情報部門(Migration health informatics)は、移住前保健活動で必要とされる情報収集、分析・評価を、最新の技術とコンピューターサイエンスを用いて支えています。これまでに下記のような情報システムを構築してきました。

  • 渡航安全情報を含め、102カ国で移住前保健活動の情報収集に使用しているIOMのオンラインのデータベースthe Migrant Management Operational Systems Application (MiMOSA)
  • 英国の入国前結核健診に使用されているUnited Kingdom Tuberculosis Global Software (UK TB GS)
  • ワクチンの在庫管理に使われるImmunization Management System (IMS)、医薬品の管理を行う MedStockなど医療活動を効率的に行う為の情報管理システム
  • IOM の遠隔画像診断センターで読影・質の管理に使用している情報システム
  • 関連外部機関と安全に情報共有するための情報システム間のインターフェイス
  • 受益者の情報と支援へのアクセスを促進するモバイルアプリケーション (MigApp)
  • IOMの入国前健診受診情報を提供し、受診予約ができるオンライン予約システム(MyMedical)

IOMの移住保健情報部門では、結核に特化した情報管理システム (TB IMS) や臨床検査情報管理システム (LIMS) , 電子情報共有システム (ePHR-Lite) 等の最新の技術を用いたイノベーションを続けています。処理時間の短縮・効率的な活動実施・質の管理・プログラムの実施計画や情報分析・様々な保健活動の統合などをこれらの情報管理システムによって実現しています。またIOMは、情報互換性を高めた中央管理システムにより、個人情報保護に配慮しながら、移民の健康に関する情報を安全に保管しています。個人情報を保護したうえで、収集した匿名情報を分析し、エビデンスに基づいた移民の健康に関する政策・実施に寄与し、移民と難民の健康を守る活動に貢献しています。