駐日事務所 インターン体験(司法修習) 2022年3月

兪 安樹(インターン期間 2022年2月28日 - 3月11日 司法修習の選択型実務修習として)


1 はじめに

  私は、司法修習の選択型実務修習の一環として、IOMでインターンとして実習をする機会をいただきました。同プログラムで応募できる実習先の中には、児童相談所や地方自治体、国際協力機構、企業の法務部等があり、どの実習先も興味深く魅力的でした。他方で、私は、実習先一覧表を見るまでIOMの存在を知りませんでした。にもかかわらず、私がIOMを選んだのは、その一覧表の中で、IOMが「日本において保護・支援を必要とする移民(外国人)のための様々な活動」を行う国際機関であると紹介され、私自身がほかでもない「外国人」であり、私のルーツが「移民」にあるからです。

2 IOMでの実習

  実習は2週間と短期間でしたが、英語が飛び交うオフィス、フォーラムを通じた諸外国との意見交換、移民や多文化共生への理解を促す広報活動、自主的に帰国される移民の方への支援活動など、IOMでの経験の全てがとても刺激的で興味深く、毎日が充実していました。

 

(1)外国人の受入れと社会統合のための国際フォーラム:「在日外国人と医療 安心して暮らせる地域社会の実現に向けて」

   外務省とIOMが共催した同フォーラムに参加させていただき、広報用の写真撮影の補助等をしました。フォーラムでは、オーストラリアでの医療通訳の仕組みや当局による移民文化に関する支援策、難民の医療を支える都内のクリニックの活動、ベトナム語通訳者の医療現場での活動に関する事例報告、そして「外国人住民の医療アクセス・医療通訳の活用を中心に」というテーマでパネルディスカッションが行われました。

   一部の在日外国人は、言語や習慣の違いから医療機関を適切に受診できず、支援を受けるきっかけを失い、日々の生活や仕事に支障が生じています。新型コロナウイルス感染症の流行により、そのような状況の解決の必要性はさらに高まりました。社会の構成員が健康を損なうことで、社会全体にマイナスの影響が生じるため、社会の構成員である移民の医療へのアクセスに関する課題解決は日本社会全体で取り組む必要があると思います。

フォーラムはオンラインで開催され、国内外から400人以上もの方が参加されました。このフォーラムがより多くの方にとって問題意識を持つきっかけになればと思いました。

(2)東京イミグレーション・フォーラム

   東京イミグレーション・フォーラムは2日間にわたって開催され、18か国・地域の入国管理当局の代表が参加されていました。1日目は、出入国管理上の危機管理対応について、2日目は外国人材の移動に伴う課題及びその対応方策についての全体会合が開かれ、分科会では、入国・在留手続の合理化や外国人の利便性向上のための取組み及び送還をめぐる課題がテーマでした。私は、IOMのインターンとして2日目から同フォーラムに参加させていただきました。

フォーラムでは、各国がどのような課題に直面し、その解決にあたりどのような工夫をしているかを具体的に知ることができました。特に課題解決の場面で、各国が独自に工夫をしていたところがとても興味深かったです。また、カナダの代表者が、国民が移民に対してマイナスの感情を持たないようにするための努力をしていると話していたことも印象的でした。カナダによる移民政策が評価されている背景には、カナダ政府の不断の努力があることを改めて認識しました。

日本では、「移民受入れにより仕事がとられる」「移民受入れにより治安が悪化する」などの意見を耳にすることがあり、そういった意見が過激化してヘイトスピーチに発展することもあります。日本は、移民や外国人を受け入れる具体的なメリットを国民に対して積極的に提示し、説明することを通じて理解を促し、そのメリットを最大にするための方策を模索し続ける必要があると思います。

(3)「移住映画で学ぼう!多文化共生」キャンペーン

   IOMは、2016年以来、「国際移住デー」に合わせ、「移住映画祭」を世界各国で実施しています。移住映画祭は、人の移動(移住)や移民に関わる映画を通じて、移民がおかれる状況や多文化共生について、議論や理解が広まることを主眼としています。私は、同キャンペーンの案内を国際教育に取り組む全国の教育機関に発送する業務の補助をさせていただきました。

キャンペーンで選ばれていた映画は、「オフサイド」というコジマ・フライ監督の短編映画でした。私も映画を拝見させていただきましたが、15分という短い映画の中に、誰かと意見を交わしたくなるような場面がいくつもありました。学生のみなさんが、この映画を見てどんな議論をされるのか、とても気になります。

多様な価値観を育み、異文化に対する寛容さや他者への共感性を高めるには、なるべく幼いころから、異文化に触れることが効果的だと思います。映画という身近なツールを通して、教育機関がこのキャンペーンに参加することは、学生のみなさんの感性を豊かにし、意見を持てるようになるのに役立つと感じました。


(4)自主的帰国の出国アシスト

IOMは、帰国の意思はあるもののさまざまな理由から帰国できず、非正規滞在や収容所生活の長期化が懸念される方々が、人権や尊厳を保ち、健康な状態で帰国できるよう、カウンセリング、健康診断、渡航書類の準備、移送手段の手配を行うほか、持続的に社会復帰できるよう帰国直後の到着地での出迎えから、国内での交通手配、経済的な自立に向けた再定住補助までを実施しています。

私は、ブラジルへ帰国する方の出国アシストの同行をさせていただきました。その際、例えば、出入国在留管理局の方の存在は感じませんでしたし、もちろん物理的に拘束されることもなく、一帰国者として、出国される方の意志や尊厳が保たれるよう、工夫がされていることを実感しました。自主的に出国するとはいうものの、個人の生い立ちや出国に至る経緯によって、出国者が抱いている感情は様々だと思います。その方々に最後まで付き添うという活動は意義のあるものだと思います。

また、現在、帰国先によっては新型コロナウイルス感染症の検査基準が厳しく、出国直前に検査を手配しなければならなかったり、出国直前の検査で陽性反応が出て、予定していた航空便に乗れず、すべてのスケジュールが後ろ倒しになるなどして、ホテルや移動手段を手配をし直さなければならないこともあり、新型コロナウイルス感染症によって出国支援を行うIOMスタッフの負担が非常に重くなっていることも目の当たりにしました。

3 おわりに

IOMでの実習の日々は、充実したものでしたが、IOMの活動は多岐にわたるため、たった2週間では、ほんの一部しか知ることができませんでした。しかし、移民が日本社会で直面している問題や日本社会にとってのIOMの活動がいかに重要かということに気づくことができました。また、実習を通じて自分の前提知識の不足を痛感し、議論の前提として、まず日本の入国管理政策や移民政策を知るところから始める必要があると気づきました。

他方、IOMの活動を見ていく中で、法律家として役に立てる場面が多くあるのではないかと感じたため、法律家として実務に出てからも、何らかの形でIOMや移民の方々の手助けをしていけたらと思っています。

冒頭で、私は外国人であり、ルーツは移民にあると書きました。しかし、ルーツをずっと辿っていくと、多くの人が移民というルーツを持つのではないでしょうか。また、自分が外国に行って不便を強いられたとき、あるいは、なんらかの手助けをしてもらったとき、どう感じるか、少しの想像力で解決できる問題もあるのではないでしょうか。ボーダーレスな現代においては、誰しも移民と無関係ではいられません。少しでも多くの人が当事者として問題意識を持ってほしいと思います。

国境は人間が引いたもので、民族も人間が定義づけたものです。「移民だから」と線を引くのではなく、一人の人間として相手を尊重し、対等にふるまうという基本的な感覚をすべての人が持てる社会になってほしいです。そのために、法律家としてできることを模索していきたいと思っています。