タイ 民間企業勤務経験を国際機関で活かすキャリアを選択 家族と世界を「イエ」に 2023年6月

 

IOMタイ事務所 プログラム・コーディネーター

船川夏子(ふなかわ なつこ)

 

■プロフィール

大学卒業後、通信会社や総合商社、JICAでの勤務を経て、2017年よりJPOとしてIOMモロッコ事務所での勤務を開始。フランスで移住・国際開発修士号取得。2023年2月より現職。

(2023年6月インタビュー実施)

 

■これまでのキャリアについて

Q:これまでのキャリアについて教えてください。

A:民間企業でキャリアをスタートさせてから、フランスの大学で移民と開発に関する修士号を取得しました。その後、フランス語能力を活かし仏語圏アフリカであるセネガルの日系商社での勤務を経て、JICAセネガル事務所で勤務後にJPOに合格しました。まずはJPOとしてIOMモロッコ事務所に赴任し、そこで6年プログラム・コーディネーターを務めたのち、今年からIOMタイ事務所に異動しました。

 

Q:IOMタイ事務所での仕事について教えてください。

A:国連「ビジネスと人権に関する指導原則」(UNGP)が定められるなど、ビジネスと人権をめぐる議論は国際社会でも活発で、サプライチェーン全体で人権リスクマネジメントが求められています。タイの工場や建設現場では、労働力を確保するために、カンボジア、ラオス、ミャンマーなど近隣国からの移民を雇用しているケースが少なくありません。タイに進出している6,000社ほどの日系企業にとっても決して他人事ではない状況にあります。

特にミャンマーからの移住労働者は、母国の情勢からその数が増えており、帰国も容易ではないため、脆弱な立場に陥りやすい状況です。私は彼らが「ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)」ができるようにするための事業を担当しており、そのためのデータ収集や人道支援、職業訓練、そして日本企業向けの日本語でのアウトリーチ活動などを率いています。これは日本政府の資金による事業で、日本貿易振興機構(JETRO)や日本企業との連携も多く、かつて民間企業で培った経験も活かすことが出来ている実感もあります。

 

Q:IOMモロッコ事務所での仕事について教えてください。

A:モロッコでは、前半はJPOとして、安全で秩序ある正規の移住のためのグローバル・コンパクト(GCM)」の実施を促進する仕事をし、後半は「労働移住と社会的包摂」に関する事業を中心に担当しました。前者はGCMが2018年に採択された時期の新しいイニシアチブで、後者は北アフリカ地域に対する支援と、趣が異なる業務でした。IOMではプロジェクトマネージャーの裁量が大きく、分野間の垣根を乗り越えて活動しやすいと感じており、常に学びながら、いい意味で飽きることなく続けてくることができました。

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■IOMについて

Q:なぜIOMで働きたいと思ったのですか。

A:中高生の頃から国際社会に貢献することに憧れがあり、修士課程ではと「移住・移民と開発」の研究をしました。1999年には国連と民間(企業・団体)が連携し、健全なグローバル社会を築くための「国連グローバル・コンパクト」が提唱されたこともあり、民間企業での経験を活かし、国際開発の中でも、特に雇用や就業支援に関わる仕事を志しました。

JPO受験時にはIOMの他、同じように「ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)」や「倫理的な雇用」に関する仕事ができる国際労働機関(ILO)も候補としていましたが、IOMで7年近く働いた今となっては、国際枠組や政策形成に強みのあるILOよりも、よりフロントラインでの実務に注力できるIOMの仕事が向いていたと感じます。

 

Q:IOMでのやりがいを教えてください。

A:どんなに美しく書かれたポリシーでも、現実社会で実装していくにあたってギャップが出てきます。IOMの仕事はフィールドとの距離が近く、またプロジェクトマネージャーの裁量が大きいので、「理念はわかるが実践的ではない」という声を埋められることにやりがいを感じます。

たとえば、現在担当している事業では、雇用主向け移住労働者ガイドラインを日本企業向けに周知・啓発活動をおこなう際、専門的で国際的なスタンダードに沿いつつも、日本企業の担当者が実務レベルで十分に解釈しすぐに活用できることを目指しています。また、奴隷制と人身取引撤廃の企業責任(CREST)に代表される「移住×ビジネスと人権」事業では、個別企業とパートナーシップを組むことが出来るなど、多様なステークホルダーと連携できることも、他の国際機関にはない魅力だと思います。

 

Q:世界中を回る仕事ですが、私生活とのバランスはどう取っていますか。

A:家庭では、「家族一緒にいられるところが『イエ』だ」というポリシーを持っています。そのため、単身赴任は選択肢になく、次の任地を検討する時は、常にその場所とタイミングを家族と話し合ってきました。セネガルで生まれ、モロッコで育った2人の子どもはフランス語を話すので、現在タイでもフランス語で教育を受けています。

出産のタイミングではキャリアの停滞を強く感じ、子育てを含む家庭生活がハードルにならない訳ではないと思います。それでも、家族が国をまたぐ転居にも前向きでいてくれていることが大きな支えです。

 

■国際機関への就職を目指す人たちに向けて

Q:国際機関を志す人に、メッセージをお願いします。

A:私の場合、これまでの道のりは決して一筋縄ではありませんでした。学生時代から国際協力に関心があったものの、大学時代は学業優先で日本式の就職活動には苦戦し、ようやく関心のある移民学の修士号を取った後も、商社での仕事を選び、初めて本格的に開発協力の仕事に就いたのは30歳を超えてから。それも、第一子が生まれた後でした。

現在は、国際社会に貢献する夢を叶え、家族にも恵まれ、充実した生活を送れていると感じますが、「難しく考えるよりも行動すること」が重要であったと振り返って思います。これから国際公務員を目指す方は、計画を緻密に練ってそれに縛られるよりも、時に勢いに身を任せ挑戦することも、国際公務員としてのキャリアを歩む上で重要だと思います。