ソマリア 強制移住を引き起こす紛争に立ち向かう 2023年11月
IOMソマリア事務所(ケニア勤務)
事業形成・報告担当官(Programme Development and Reporting Officer)
篠﨑 智美(しのざき ともみ)
■プロフィール
大学在学中より、日本や海外のNGOでインターンとして積極的に実務経験を積む。卒業後は英国の大学院に進学し、さらに海外での実務経験を重ね、2018年にはIOMケニア事務所でインターンとして勤務。大学院修了後、2019年より国際協力NGOで2年間の勤務を経て、2021年3月よりIOMナイジェリア事務所で国連ボランティア(UNV)を行う。2021年度JPO試験に合格し、2022年1月よりIOMギリシャ事務所で保護担当官としての勤務を経て、2023年4月よりIOMソマリア事務所で現職。
Q:学生時代から一貫して国際協力を中心にしたキャリアを歩まれています。この道を最初に志したきっかけを教えてください。
A: 大分県で生まれた私は、小学校の修学旅行でヒロシマを訪れたことをきっかけに、核兵器の廃絶に関心を持つようになりました。高校時代には、戦争も核兵器もない平和な世界の実現を目指す「高校生一万人署名活動」に取り組み、大学では、「国際連合研究会」というクラブでこのテーマについて知識を深め、その研修旅行で訪れたアメリカのニューヨークでは、国連本部の軍縮問題担当者からブリーフィングをしてもらう機会も得ました。
また、1年間フィリピンに留学して英語を学びつつ、路上で生活する子どもたちを支援するNGOでのインターンシップにも励みました。実際にスラム街に足を運んで格差を目の当たりにする中で、核兵器の廃絶だけでなく、貧困や開発の分野にも視野が広がり、フィールドの最前線での仕事に魅力を感じるようになりました。
Q:大学卒業後、大学院時代はどう過ごされましたか。
A: フィリピンから帰国後は、紛争予防に取り組む日本のNGOでのインターンシップを経て、紛争の予防や解決、復興の分野への関心が高まり、イギリスの大学院では戦後復興学(Post-war Recovery Studies)を専攻しました。ここでも実務経験を積むために積極的に海外でのインターンに勤しみました。
特に修士論文のフィールドワークで東アフリカに位置するウガンダ共和国を訪れたのは、今も私を支える原体験です。隣接する南スーダンやコンゴ民主共和国から多くの難民を受け入れるウガンダは、政策として「難民居住区」を設けています。そこに避難してきた人々は、周辺国の「難民キャンプ」と比べて移動の制限もなく、受入コミュニティと協働しながら、働いて地域に貢献したり、教育や医療を受けたりできます。それでも雇用機会は極めて限られるため、正規雇用は国連やNGOなど援助機関の現地スタッフくらいしかありません。実際に私がインターン中にお世話になった現地スタッフに援助機関で働く理由について尋ねると、「故郷では電気技師をしていたが、ここではそのスキルを生かせる雇用の機会がないから」と本音を話してくれました。生き延びるために避難(強制的な移住)をしてきた彼らを思うと、経験や知識を得るために自らの意志で日本を離れて来た(自発的な移住)自分がいかに幸せであるか実感し、強制的な移住の原因や、移住を強いられた人々への支援に取り組む覚悟ができました。
人の移動・移住を専門とする国際機関であるIOMの活動に関心を持ち始めたのもこの頃で、大学院修了前の2018年には、IOMケニア事務所で3カ月間インターンとして働く機会を得ました。
Q:就職後、現職に至るまでの道程を教えてください。
A: 2019年に大学院を出てから、初めてフルタイムの職員という形で、日本の国際協力NGOで勤務しました。最初は東京事務所、その後ウガンダに駐在し、難民・国内避難民支援に取り組みました。その後、広島平和構築人材育成センター(HPC)が実施する「平和構築・開発におけるグローバル人材育成事業」の2020年度プライマリー・コースに参加し、2021年3月よりIOMナイジェリア事務所で国連ボランティア(UNV)として勤務しました。
その後、2021年度JPO試験に合格し、2022年1月よりIOMギリシャ事務所で勤務することになりました。ギリシャは世界100カ国以上にあるIOMの拠点の中でも極めて大規模な事務所で、ヨーロッパ連合(EU)諸国で難民申請を行う人々に対するダイナミックな支援の現場を経験できた一方で、大きな体制変更があり、JPO2年目からはIOMソマリアのナイロビ・サポート事務所に異動しました。
Q:IOMならではのやりがいや、組織としての特徴はどう感じますか。
A: 「移住」と一口に言っても、留学など自発的な移住から、避難など強制的な移住まで様々で、求められる支援は非常に多様です。移住に関する支援ニーズは世界的に増える一方で、IOMの役割も当然幅広く、強制移住を引き起こす原因そのものにもアプローチ出来ることに大変やりがいを感じます。
たとえば、アル・シャバーブをはじめとする暴力的過激派集団の活動が強制移住の大きな原因となっているソマリアでは、これらの集団からの自発的な離脱・脱退を促進し、集団を弱体化させるため、政府は低リスクの離脱者(料理人や清掃員など、直接的な暴力行為に関わっていない人々)に対しては恩赦を与え、刑務所には送らずに、社会復帰の機会を認めています。このような政府の取り組みの下、強制移住の原因に対応するため、私の所属するIOMソマリアのDDRR(離脱・脱退・社会復帰・融和)の部署では、政府によって低リスクと選別された離脱者に対して、教育や生計向上、心のケアなど包括的な社会復帰支援を行っています。
加えて、事業の進め方も気に入っています。多くの援助機関は開発コンサルタントや現地パートナーに事業や活動を委託していますが、特にIOMでは、事業形成から事業運営、モニタリング評価まで自前で担う傾向が強いと思います。これにより、事業の全ての段階に直接的に関われるため、大変にやりがいを感じます。
Q:常に若くしてポストを得て、最短距離でキャリアを歩まれています。日々の苦労とそれを克服する心掛けは何ですか。
A:現在の事務所では親世代の同僚と肩を並べることもあり、当然意見を出しにくく感じる場面もありますが、自分の知識やスキル、経験が役立つ場面では、貢献できるよう心掛けています。同僚の中には、現地語が堪能で現地の文化にも詳しい人材や、特定の分野の専門知識に長けたスペシャリストがいます。特に私は事業形成と報告の業務を担当しているため、周囲と良い関係を築き、多彩なアイデアをもらいながら、新しい事業を作り、実施中の事業の成果や課題、学びなどをドナーへの報告書としてまとめています。
Q:今後の展望について教えてください。
A:今後も強制移住を引き起こす課題に取り組み、その影響を受けた人々の支援に携わり続けたいと思っています。実務面では、今は事業形成と報告が主な業務ですが、今後は実際の事業運営にも役割を広げていきたいです。
また、ケニアには夫が帯同してくれているので、家庭とも両立しながら、今後もIOMの支援の現場でキャリアを構築していきたいです。
Q:国際機関を志す人に、メッセージをお願いします。
A:IOMには、経理や事務、管理職など様々な職種があるため、実務経験を積まれた社会人の方々が貢献できる場も多いと思います。経験の生かせるポストとのマッチングが重要なため、人脈づくりなどを通じてポストの情報を得ることが大きな一歩になると思います。
学生の方々には、自分の視野を広げるために、インターンシップをお勧めします。私は就職するまでに5つのインターンシップに挑戦する中で、徐々に自分が本当に情熱を傾けられる分野と、貢献したい職種や専門性が明確になってきました。それらが定まれば、おのずと次のキャリアのステップが見えてくるのではないかと思います。