エジプト JPOとして気候変動対策や緊急人道支援に取り組む

IOMエジプト事務所

環境・イノベーション担当官

田中 克昌(たなか かつまさ)

 

Q:この道を最初に目指したきっかけや、関心領域について教えてください。

A: 高校生の時に「高校生一万人署名」という課外活動に参加し、長崎で被爆者の方からお話を聞き、世界の平和について「自分ごと」と捉えるようになりました。その活動の一環でジュネーブの軍縮会議に赴く機会があり、実際に国連、市民社会団体やそこで働く職員、また日本政府代表部の外交官の方に憧れを抱いたのが最初のきっかけです。

 

Q: 大学院修了後はコンサルティング・ファームの日本拠点で3年間働かれています。

A: 国内の大学を卒業後は、身軽に動けるうちに学位を取り語学も磨いておきたいと思い、暴力・紛争・開発に関する修士号をイギリスで取得しました。修了後のファーストキャリアは悩みましたが、数年の内には国際協力の仕事に就く希望を抱いていたので、業界に縛られず成長できる環境を求め、日本でビジネス・コンサルティングの仕事に就きました。

コンサルタントとしての3年間は、ITシステムの構築など、国際協力とは直接関係のない仕事にも従事しましたが、そこで培った多国籍プロジェクトの管理や、資料作成のスキルなどは、本当に今日のキャリアでも役立っています。また、国際協力の仕事は、時には雇用が安定しなかったり、世界各地への赴任を伴ったりするのも事実です。初めに民間企業で経験を積んでおいたことで、将来のキャリアの柔軟性が上がり、心理的・経済的な安定性も向上し、むしろ国際協力でのキャリアへの挑戦がしやすくなったとも感じます。

 

Q: その後、在スーダン日本国大使館専門調査員としてのお仕事について教えてください。

A: 民間企業で3年間ほど働いたタイミングで、在スーダン日本国大使館の専門調査員のポストに縁があり、ハルツームに2年間ほど駐在しました。私が関心のあった平和構築は実務経験の第一歩を踏み出すのが難しい領域です。本格的な国際協力キャリアの入り口で、大使館の政務・経済担当として、民政移管の最中にあるスーダンで平和構築や開発のフロントラインで働けたのは貴重な機会でした。

専門調査員としては、現地の有識者や政府関係者、国際機関など協議を重ねてプロジェクト形成を形成するなど、その後の国連での業務に直結する経験を得ると共に、スーダンのスタートアップ企業支援といったコンサルタントとしての経験を活かした業務にも携わることができ、やりがいに満ちた日々でした。

当時は治安が比較的良い国でしたが、物やインフラが不足していたり、任期中にクーデターが発生したりと大変な時もありました。スーダンの民政移管や経済復興も一筋縄ではいかず、もどかしさや自分の無力さを強く感じることも多々ありましたが、一方でそれが仕事のモチベーションにもなりました。そして何より経験が豊富で、よき同僚や先輩、上司、仕事のカウンタパートから、日々学び続けることが出来た2年間でした。

 

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Q:現在のIOMエジプト事務所でのお仕事について教えてください。

A:専門調査員の任期を終えるタイミングで、JPO試験に合格しました。平和構築に加えた軸として、気候変動にも関心があり、IOMで気候変動に取り組めるポストと希望が合致しました。移住にまつわる各地の支援のニーズは高まり続けており、IOM職員の勤続率が比較的高いので、JPOとして戦略的なキャリア選択でもありました。

現在のポストは「環境・イノベーション担当官」といいます。エジプトは、スーダンやイエメン、シリアなどから推定で900万人もの移民や避難民を受け入れています。IOMは医療保健や保護、難民の定住支援など幅広い事業を実施しています。2022年にはエジプトでCOP27(国連気候変動枠組条約 第28回締約国会議)が催され、環境や気候変動と移住の関係性(Migration, Environment and Climate Change:MECC)についても注目が集まっています。エジプトの人口の多くが集中し、農業が盛んなナイル川デルタは、標高が低く海面上昇により浸水や塩害のリスクにさらされています。移住は、気候変動への対策としては、あらゆる予防策や適応策が施された上での最終手段ですが、その関連性を現地政府の関係者などに訴えていくことが求められています。

 

Q: IOMについては、いつ、どのように知ったのでしょうか。

A: 国連職員としてのキャリアを志す中でIOMについて知ってはいましたが、特にスーダン駐在中には、IOM現地事務所の活動が身近にあり、具体的にイメージが湧きました。自分の選択肢として意識し始めたのは、JPO試験の選考の過程でした。

 

Q:IOMならではのやりがいや、組織としての特徴はどう感じますか。

A:同僚も同じことを言う人が多いですが、IOMは現場を大切にしていて、被益者が近く、フットワーク軽く仕事に取り組める職場です。官僚主義な雰囲気が薄いので、自前で「なんでもやってみよう」というメンタリティで、現場のニーズを自分で見つけて取り組んでいける醍醐味が大きいと感じます。

また、今日の世界はあらゆることが人の移動に結び付いており、IOMは人身取引対策や移住労働者のための法整備支援などの制度設計から、紛争や災害対応の最前線まであらゆる活動を展開しています。

私がエジプトに赴任してすぐに前任地スーダンで紛争が始まってしまい、多くの避難民がエジプトにも避難してきています。その後は隣接するガザ・イスラエルでも紛争が発生しました。私は気候変動関係の仕事に加えて、自ら手を挙げて、スーダン避難民支援やガザへの人道支援物資の搬入などにも携わっています。政策支援から目の前で困難な状況に直面している方々への支援まで、幅広い業務に主体的に携われることに大きなやりがいを感じます。

 

 

Q:これまでのキャリアで心掛けたことや、ピンチに感じたこと、ターニングポイントになったことは何でしたか。

A: 国際協力には、貧困削減から農業、保健、民間セクター連携まで様々な領域があり、また、そこに辿りつくためにも多様な道のりがあります。私の場合は元々目指していた平和構築領域から逆算してキャリア形成を心掛けましたが、今でも日々迷い悩みながら模索しています。

JPOとしての日々は、毎日が挑戦です。フレキシビリティが高いとは、裏を返せば自分で主体的に動かなければならないということです。今はJPOとして1年弱が経過したところですが、自分の軸を持ちながらも、あらゆる機会にアンテナを張り、そして「彼に頼めば大丈夫」という信頼の貯金をふやしていくことが重要だと思っています。

 

Q:今後の展望について教えてください。

A:気候変動の専門性を高めつつ、IOMの事業管理の全体像を学び、「プログラムサポート」とよばれる事業形成やレポーティング、評価といった一連の仕事も出来るようになりたいと考えています。専門性や語学力もまだまだ不足していますので、日々努力をしていかなければと思っています。

この業界は、契約ベースの雇用だったり、国際情勢に左右されたりと、一筋縄ではいかないこともたくさんあります。ある程度楽観的なメンタリティも忘れずに、次のステップを踏んでいきたいと考えています。

 

Q:国際機関を志す人に、メッセージをお願いします。

A:国際機関の仕事は、 TVや新聞で見るような遠い国で支援を必要としている人に、実際に手を差し伸べられる仕事です。この立場にいるからできることがあります。「国連で働く」夢はという遠いようにみえて、地道にステップを重ねることで叶いました。世界の問題に立ち向かう方法は国連以外にもありますが、国連でのキャリアに少しでも関心のある方には、ぜひ目指してほしいです。

そのためには、人に助けてもらうことも重要だと思います。学業、キャリアの道のり、そして具体的なポスト選択に至るまで、半歩先、一歩先を行く先輩方に直接聞くことが有益な場面がたくさんあります。私も何かアドバイスが欲しいとき、先輩方がいつも必ず助けてくださいました。学生や未経験だからといって遠慮せず、イベントに参加したり、先輩に連絡してみたりとまず一歩踏み出すこともおすすめします。

このインタビュー記事を読んでくださった皆さんと、どこかでお仕事を一緒させて頂くのを楽しみにしております。

 

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■ プロフィール

日本の大学及び英国の大学院を修了後、コンサルティング企業及び、在スーダン日本国大使館専門調査員を経て、JPOとして2023年よりIOMへ。エジプトにおける気候変動と移民に関する取り組みに加え、スーダン避難民やガザ地区への緊急人道支援を担当。