シェフになることを夢見る16歳のウクライナ避難民の青年と、キオスク型カフェの経営でジェンダーに関する偏見を乗り越えようとするモルドバ人女性起業家が、IOMの生計向上支援を通して出会い、つながりました。

2023年4月 モルドバ・キシナウ

ダニールはオデッサ出身の16歳です。

彼は戦争を逃れて、母と妹と2022年3月初めにモルドバにやってきました。祖父母は高齢で避難が難しく、ウクライナに留まりました。ダニールはオデッサの職業学校で調理を学んでいました。

ダニールの夢はシェフになることです。

他のウクライナからの避難民と同じように、ダニールとその家族は、安全な住まいと仕事を新しくみつけるのに苦労しました。未成年であっても、ダニールは母を助けるためにキシナウでいくつもの短期の仕事をしました。母はウクライナでは長年マネジメントの仕事をしていましたが、モルドバでは調理補助の仕事に就きました。2022年9月、ウクライナで学校の授業が再開し、ダニールは勉強を諦めたくはないと思いました。調理師免許はシェフとなる夢を叶えるために大事だとダニールは考えています。

ベッドの上が彼の教室です。携帯電話とヘッドフォンで、オンライン授業に参加しています。

ときは足早に過ぎ、厳しい冬がやってきました。モルドバでの生活費が高騰し、燃料価格が急騰しました。ダニールはアルバイトの仕事をみつけなければなりません。

「働かなくてはここで生活できません。キシナウで勉強を続けるには、アルバイトの仕事が必要でした。そんなときに、『スークッキー』のことを知ったんです。」

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ダニールとエレナ、同僚たちと Photo: IOM / Ana Gnip

 

「スークッキー」はモルドバの会社で、小さなキオスク型カフェと菓子店をキシナウ中心部で展開しています。IOM生計支援チームは、アメリカ政府からの援助でウクライナから避難してきた人々を雇用する中小企業を支援していますが、「スークッキー」はその表彰を受けています。キオスク型カフェはクッキーやケーキを作るために、シンクやミキサー、食洗器などのキッチンに必要な設備の支援を受け、改修により職員が作業するスペースができました。

 

この会社を経営しているのは、39歳のモルドバ人、エレナ・トムズです。

「私のこれまでも簡単ではありませんでした。」と彼女は話します。最初の5年間は、エレナは自宅でケーキを焼いて友人や知人に売っていました。しかし人気が高まると、ビジネスを拡大する必要性に迫られました。もっと大きな場所で人を雇って起業する必要がありました。趣味はこのとき仕事になって、エレナは自分の店を開くことになりました。そして、女性の小規模ビジネスを支援するIOMの経済支援を受けることができました。

「女性として、支えられていると感じています。自分の努力で自分の道を切り開いた女性経営者としての価値を、自分自身が多くの人に示せたらと思います」

 

IOMの活動を通じて、エレナとダニールの取り組みがつながりました。

エレナはバリスタ採用のための支援をIOMに依頼しました。IOM生計支援チームは支援対象者のリストから適切な人材を探し、面接に呼ばれたのがダニールでした。ダニールはバリスタとして勤務した経験はないものの、他の条件は全て満たしていました。ダニールは即日採用され、バリスタとしての研修を受けたのちに働き始めました。「おいしいコーヒーを淹れる秘訣を学んだら、僕もおいしく淹れられるようになりました。」と彼は話します。

スークッキーの顧客も同じように思っています。ダニールの淹れるおいしいコーヒーだけでなく、彼の人生のストーリーは注目を集めていて、顧客のインスタグラムでもよく紹介されています。

 

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コーヒーを提供するダニール Photo: IOM/Ana Gnip

 

数カ月に亘ってさまざまな困難を経験してきたダニールにとって、これほど嬉しいことはありませんでした。モルドバ社会の一員として、ダニールは誇りを持って笑顔でコーヒーを淹れ、仕事という形で貢献しています。これはダニールにとって、夢を叶えるキャリア形成となり、安定した収入をもたらす初めての仕事です。

「学校の課題をやったり、オンラインで授業に出たりするためにパソコンが欲しい。携帯とヘッドフォンじゃなくてね。」と彼は話します。

最初の投資は勉強のためです。ダニールのバイタリティは、常に彼の将来の夢に向けて湧いてきます。シェフになってウクライナでビストロを開業し、祖父母を最初の客として迎え入れるという夢に向かって。