駐日事務所 インターン体験記 2020年6月

阿讃坊明孝(インターン期間 2020年1月9日 - 6月8日 日本弁護士連合会を通じたインターン・プログラム)

1 インターンを始めるきっかけ

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在宅でのインターンシップ
(筆者提供)

私のIOMでのインターンのきっかけは、一言で言えば、国際人権の現場や国際機関の活動というものが、どのようなものか自分自身の目で見て確認してみたいと感じていたことにあります。

元々、私は、弁護士として犯罪被害者支援、刑事事件、消費者被害、成年後見、原発事故被害等、様々な分野に関わって活動を行なっていました。多くの厳しい状況に直面した依頼者と接するうちに、社会や法制度の状況をもっとよりよく改善する為に、訴訟や交渉を通じて行う個別救済の為に他に何か有効な手立てはないのか、また、個別救済を越えて他にできることはないかなどと考えるようになりました。

そのような中、日本を含め世界全体が直面する社会問題や人権課題について、専門的知識を含め視野を広げ更に深い理解を得たいと考えたことから、日弁連の推薦を得て、2020年秋からイギリスのロースクールに留学し、国際人権法を学ぶこととなりました。そして、国際人権法を専門に勉強するのであれば、その実践を日々行なっている国際機関の現場にて、その活動を目にし現実に関わることは、今後の自分の思考や発想において強力な糧となると考えました。それがインターン開始のきっかけです。

特にIOMを志望したのは、IOMが人身取引被害者の支援を実施しており、私が長年関わってきた犯罪被害者支援との類似点から強い興味があったことがきっかけでした。加えて、私が子供だった頃と比較し社会の国際化は著しく(ごく単純な例では、昔は電車で外国人を見るだけでもびっくりしたのを思い出しますが、今では当たり前な状況です)、移住の問題については今後益々重要性を増すという点から、興味を持っていたということもありました。振り返れば、私もイギリスへの短期移民となるので、人ごとではありません。

2 インターンの開始

職業としては、弁護士業務を通じてのみ社会を見ていた私にとっては、IOMでの経験は、異なる窓から社会を見るようで、とても刺激的で知的好奇心をそそられる毎日でした。特に、国際機関という特殊な立場から日本社会や国家のことを考えたり、対内及び対外折衝を行なったり、移住問題や移民の状況を調査することで得られる視点は、その立場に立ってみないとわからないものだったと思います。また、英語でのメールや文献、資料については、特に専門的な用語等に慣れない時期は、大量の文字に追われて大変だったことを思い出します。

3 担当業務

(1)Migration Profile

外国籍の正規滞在者、旅行者、労働者、留学生、亡命者、オーバーステイ、退去強制された者、人身取引被害者などについて、その人数、国籍別の割合、増減の傾向など、日本の移民や移住の現状の複雑な全体像について、総合的に理解し記憶している人は一般的に多くはないと思います。IOM内部のスタッフや対外的な機関へこれを理解してもらう為には、これをブリーフィングすることが必要です。その為に、統計データやグラフを収集し、各種白書を調査して日本の状況を簡潔にとりまとめ、日本の移住に関するデータ(Migration Profile) のサマリーを作成しました。

(2)MGI

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©IOM

次に、IOMが推進しているMigration Governance Indicator(MGI)という指標があり、国家がIOMや専門家と共に移住政策の現状分析を実施することにより、その国の移住政策の進達度合いや将来性のある領域を発見し、発展させる土台とすることができます。日本はまだ未実施ですが、移住政策はかなり広い分野にまたがり複雑である為、政府の能力や意欲が高くても全体の把握と有益な施策を把握するのは非常に困難であると言われています。これをMGIは助け、社会の発展に資する為、関連する文献とすでに発表されている他国のMGIの資料等を検討し、MGIの内容の理解を助ける資料作成を進めました。実施済みの国家のMGIはウェブサイトで公表もされています。

(3)サプライチェーン

更に、人身取引や労働搾取については、IOMではベトナムが中心となってビジネスと人権の問題に取り組んでいるとのことでしたが、日本もこの問題に無関係ではありません。アジアでは、経済的または性的搾取の為の人身取引は非常に深刻な問題です。悲しいことに日本はその大きな目的国の一つであり、被害者を生み出すことに大きく加担しています。その為、日本に存在する企業の考え方や構造の変革が重要課題となっています。現在、一部先進企業は自ら率先して自社の問題解決に取り組んでおり、自社のサプライチェーンにおける人身取引被害や労働搾取をなくし採用過程を適正にする為、意欲的な活動を始めている企業があります。そのような企業に対し、IOMはトレーニングを実施したり、適切な実施を支援する活動を行なっている為、この分野での準備作業や英語版パンフレットの和訳版作成等の補助に携わりました。

(参考:CREST - 奴隷制と人身取引撤廃の企業責任

(4)京都コングレス

2020年4月20日から予定されていた国際会議である京都コングレス(国連犯罪防止刑事司法会議)にIOMが参加し、ブース出展も行う計画だったため為、その準備作業に携わりました。国際会議の準備設営の裏側では大変な準備作業が進められており、IOM内部及び日本の関係省庁や京都コングレス事務局と連絡を取りながら進めていく準備の一端を担当しました。残念ながらこの年の2月頃から蔓延した新型コロナウイルスの影響で京都コングレスは延期となってしまい、IOMの一員として京都コングレスに参加する計画は叶いませんでしたが、様々な準備・調整業務を通じて、国際会議の準備の苦労を垣間見ました。

(5)移住に関するグローバルコンパクト(GCM)

201812月に国連総会にて採択された「安全で秩序ある正規の移住に関するグローバル・コンパクト」(GCM)は、国際的な人の移住の全ての側面を全体的、かつ包括的に取り扱った合意です。これにより、移住ガバナンスが改善し、今日の人の移動(移住)に関わる課題に対応し、移民や移住による持続的な開発への貢献が強化されることが期待されています。また、GCMリージョナルレビューというものを実施することで、各国はGCMの地域における実施状況や達成状況の評価をし、議論をし、将来のグローバルレビュー実施のため、移住の問題について得られた知見を持ち寄ることが期待されています。このリージョナルレビューを推進する為には、政府や関係機関の理解を深めてもらい、充実した手続遂行をする必要があることから、この点に関し必要となる関係資料を確認し、有益となる情報をまとめ、また、資料を作成及び修正しました。

4 テレワーク

この点、同じく新型コロナウイルス蔓延を防ぐ為、この年の2月26日から27日にかけて首相から大規模イベントの自粛要請や3月中の全国一斉休校要請があり、この時期から積極的にテレワークが推進されはじめました。確かに、人が集まる会合への参加自粛をしても満員電車で通勤しているのでは意味がなく、テレワークの普及は社会的に必須な状況でした。

IOM駐日事務所でも、インターンも含め全員がテレワーク可能との指示が出たことから、私も一定時期以降、愛知県の自宅からテレワークを実施しました。おそらくIOM駐日事務所でテレワークをしたインターンは私が初めてではないかと思いますが、実際に経験し、インターンであってもテレワークスタイルは有益な側面もあると感じました。愛知県で自動車通勤、仮に電車に乗っても満員にまではならないという極楽の環境に慣れた身には、久々の首都圏電車通勤は学生時代と何ら変わらず非常に過酷なものでしたが、テレワークでは当然通勤不要です。空いた時間に散歩をすると、景色の良い場所に多くの人が(密にならない程度に)リフレッシュしに来ています。私だけではないと思いますが、今後労働環境含め様々な社会のあり方を変える状況にあるのではないかと身をもって感じました。オフィスにしがみつく必要もありません。日本は、今後数年間で改善されているでしょうか?

実際に職員の方と目の前で意見交換をしたりなどがスムーズにしづらいというデメリットもありますが、事前に面識があり信頼関係も築いていれば、特に問題ありませんでした。ネットワークも整備されており、進行中の事柄の情報共有も可能で、海外のIOM事務所とのやりとりも把握させてもらえ、意見交換、案件処理などについても円滑に実施できました。新型コロナウイルスの移住労働者への影響や政府の施策など、日本政府や報道機関の発信する情報の集積も手伝いましたが、過酷な状況になればなるほど、異国にいる移住者への影響は増大するし、また、このように意識していなければ、そのような問題は実感として得るのが難しいと感じました。

5 プレゼンテーション

また、法的な側面から、時事的な国際人権と出入国管理関連の問題として、2019年12月30日にレバノンへ密出国したカルロスゴーン氏の事件を題材として、「日本の刑事司法と国際人権」に関し、IOM駐日事務所内でプレゼンをさせて頂きました。刑事司法制度に対し国際的関心が向けられ、改善のきっかけになりうる事態だと言えます。この点も今後数件間で変化があるでしょうか?

改めて報道内容をチェックした上で、国際人権法上の論点を勉強することで理解を進められたことと、弁護士としての法的側面からの情報提供により、若干の貢献ができたことを嬉しく思います。

6 終わりに

日本は、人身取引加害者側の社会であることから、移住の問題とそもそも無関係ではいられません。加えて、長期的な人口減少傾向から移住労働者の割合も増加傾向にあること、何より社会の国際化で日本から出るも入るも昔に比べると遥かに簡単であることからも、日本社会が鎖国のように移住者を拒んでいる時代ではなくなったと言えます。そのように考えると、日本にいながら日本及び社会の移住問題に目を向け、問題意識を育む事ができたのは、これから国際人権を学ぶ上でこの上ない経験ができたと思っています。

また、IOMでは、各部門について詳しいブリーフィングをして頂けたほか、日常的に様々なIOM内部のやり取りや動き、各種情報を逐一教えて頂き、実際にやりとりを行うことで、国際機関内部の動き方を肌で感じる事ができました。加えて、日々の日常会話や会食の機会の中での意見交換や時事問題に関するやり取りの中で、国際機関で勤務してきた方々の感じ方や意見は、示唆に富むものが多いものでした。この点こそ、外部からでは触れられない経験で、自分の考え方に影響を与えるものでもあり、インターンの通常業務同等に非常に有益だったと思います。

5ヶ月もの期間、本業以外の分野に本気になって取り組めたのは、とても得難い経験でした。ここで得られた経験を、今後携わる活動に生かして行きたいと考えています。