命がけの旅路 第3巻 - 行方不明の移民データの向上

© IOM 2017IOMのデータによると、2014年以降、世界で22,500人を超える移民が死亡または行方不明になっている。実際にはこの数字よりずっと多いと思われるが、死亡の多くは記録されることがない。その理由は様々である。死亡場所が世界の僻地であったり、或いはそうしたデータ収集が当事国政府の優先事項でない、または収集のためのリソースが不足している、などの単純な理由による場合もある。
 
この報告書は、行方不明の移民に関するIOMによるグローバルレポートのシリーズ第3巻で、2部構成となっている。第1部では、行方不明の移民に関する既存及び潜在的データソースについて考察する。第2部では、現在入手可能なデータの詳細な地域ごとの分析を提供する。『命がけの旅路』第3巻第1部の第1章では、2014年以降の全世界の移民死者数に関する最新データを提供し、移民女性及び子どもが直面するリスクに注目する。IOMの Missing Migrant Project により集計されたデータは、移民の死者数を全世界的に取りまとめた、現在では唯一のデータベースであり、それを基に世界各地の死亡または行方不明となった移民について記録された数や概要を紹介する。
 
この報告書では、行方不明の移民に関するデータ収集方法の課題について述べる。データは、沿岸警備隊や監察医などによる公式の記録のほか、報道、非政府組織 (NGO)、移民を対象とした調査やインタビュー等から収集される情報も含まれる。このように様々な情報源から得られるデータは、その質にばらつきがあり、入手可能なデータにおける数多くの矛盾は、地域間あるいは経時的比較を困難にしている。
 
今回の報告書では、こうした悲劇の発生を防ぐために役立てられ、また残された家族が愛する人の安否についてもっと知ることができるよう、行方不明の移民に関するデータの向上を如何にして図れるか、という点を中心に議論を進める。移民の死亡報告についてはメディアからも政策的にも注目されているものの、関連するデータは依然として極めて限られている。死亡する移民本人についてはほとんどわかっていない。遺体の多くは発見されることがなく、発見されたとしても、その身元は確認されないか、確認作業に何年もかかることがある。死亡した人の年齢や性別の判別すら難しいことも多い。報告書では、これが単にデータたり得る情報欠如の問題ではないことを示唆している。行方不明移民に関するデータを向上させる方法はいろいろあるが、当事国政府によっては、データの収集分析を優先事項とするリソースや関心がない場合もある。

この報告書では、行方不明の移民に関するデータの収集、共有並びに報告を向上させるための、3つの主要な方法に特に焦点を当てた。

1.新たな情報源たり得るデータの出所をより有効的に活用

この報告書では、行方不明の移民に関するデータが得られる可能性のある情報源が増えていると指摘する。一章を充て、例えば「ビッグデータ」の分析により、地中海における捜索や救助活動の状況についての理解を高めることが可能であることを示す。新たなデータソースは従来のデータソースを補完し得る。ビッグデータからは、移民船が行方不明となる兆候や救助活動が集中的に行われている場所についてのさらなる情報を得ることができる。もう一つの新たなデータ収集アプローチとしては、死を目撃したかも知れない移民本人から直接得られる情報を増やす方法がある。ただし、そうしたデータの解釈には慎重を期するべきだと報告書は提言する。例えば、そのような調査は代表的事例でない場合があり得るほか、同一の死亡について複数の目撃者から聞き取り、別々の事例として記録されてしまう二重計上の危険がある。

2.身元確認率の向上のためのより良いデータ

報告書は、行方不明の移民のうち、身元が確認される割合に大きな地域差があると指摘する。身元確認率が25パーセントとかなり低い地域もあれば、75パーセント近くにまで達している場合もある。このことは、身元確認率向上のために、データ収集の面における工夫の余地がまだかなりあることを示唆している。例えば、より効果的なデータ共有のための仕組みづくりが、身元確認率向上の一助となり得る。報告書では、南米の科学捜査チームによる興味深い取り組みについて取り上げている。同チームは、NGOや行政と連携して行方不明の移民の身元確認作業を容易にするデータ共有を促進している。こうしたデータは往々にして断片化され、国内あるいは国家間での効果的な共有がなされない。欧州に焦点を当てた章では、行方不明移民の家族とより密に接触することによって行方不明者本人のプロフィールに関するより多くのデータを引き出せる可能性があると指摘する。残された家族が、移民制限やリソース不足により、身内が死亡したと思われる場所を訪れることのできない事態がしばしば起きている。

3.異なる方法によるデータ伝達

第3に、行方不明の移民に関するデータ向上には、かかるデータの利用や伝達について熟考をさらに重ね、これまでの手法を改善させる必要がある。データは収集するだけでは不十分で、正確にそしてバランス良く解釈、報告されなくてはならない。この報告書中の別の章では、行方不明の移民に関するメディアの報道のし方に焦点を当てる。メディア報道の現在の基準には大きなばらつきがあり、またその論調は人道的懸念を表明するものから移住についての否定的なストーリーの転載までさまざまであると指摘する。メディアから出される移民の死亡情報は誤り、不正確、不完全または誇張であることが多い。行方不明の移民に関するデータのかなりの部分がメディアを出所としている状況において、このことはデータの観点から重大なことである。
 
今後、この報告書の報告結果が「安全で秩序ある正規移住のためのグローバルコンパクト」に関する議論に影響を与えることを期待する。そして、国連の「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に移住の問題が盛り込まれ、安全で秩序ある正規の移住促進に向けて各国がコミットするためには、「安全でない移住」に関するデータの向上が求められる。安全な移住促進の進捗を測る重要な指標の一つは、毎年の死亡または行方不明と確認された移民者数である。『命がけの旅路』第3巻第1部では、現在のデータソースについてグローバルに検証し、行方不明の移民に関するデータの収集、分析及び伝達方法改善の必要性を説く。


報告書(英文PDF)はこちらでダウンロードできます↓
 
『命がけの旅路 第3巻第1部 - 行方不明の移民データの向上』
(原題:Fatal Journeys, Volume 3 Part 1: Improving Data on Missing Migrants

『命がけの旅路 第3巻第2部 - 行方不明の移民データの向上』
(原題:Fatal Journeys, Volume 3 Part 2: Improving Data on Missing Migrants)