ウクライナ アソシエートエキスパート体験  2010年1月  佐藤智子

IOMウクライナ・キエフ事務所の人身取引防止部にてアソシエート・エキスパート(AE)として2年間(2007年11月~2009年11月)勤務した、IOM職員佐藤智子からのレポートです。

旧ソ連3カ国の人身取引防止プロジェクトをサポート

2010年1月
旧ソ連3カ国の人身取引防止事業に関わって 
アソシエート・エキスパート 佐藤智子


はじめまして。

このレポートでは、私の限られた2年間の経験からではありますが、IOMの「人身取防止(Counter Trafficking)」活動、そして国際機関へ派遣されたAEがどのような業務を担っているのか、一例をお伝えできればと思います。

私は2006年度アソシエート・エキスパート(AE)派遣制度*1に合格しました。私はかつて6年間日本の入国管理局に勤め、入国警備官として数多くの人身取引の被害に遭った女性を調査したことがあります。彼女たちの多くは発展途上国の貧困層の出身であり、家族への送金を夢見て日本への渡航を決めたものの、覚えのない数百万円の借金を入国経費名目で負わされ、不当な労働(特に売春等)を強いられていました。

 

「被害者の母国での貧困削減を含め、弱者を食いものとする国際犯罪の根を絶つ手助けをしたい。」この想いを基に、私は国際協力の道を選択しました。このため、AEとしてIOMへの派遣が決まった際、人身取引対策において最も経験があり、活発な活動を実施している事務所の一つであるキエフ事務所(ウクライナ)への赴任を選択しました。

IOMキエフ事務所が行った3度の調査結果によれば、1991年のウクライナ独立以降、人身取引の被害にあったウクライナ人は約12万人以上と推定されています。IOMキエフ事務所は1998年に人身取引対策プログラムを立ち上げて以来、政府と現地NGOや宗教団体などの非政府組織のネットワーク化や法律・社会制度の充実を図りながら、被害者の保護と社会復帰(Protection & Reintegration)、事件化と加害者の訴追(Criminalization & Prosecution)、防止活動(Prevention)に係る様々な活動を行っています。

ウクライナ国民の間でも、人身取引と言えば「若い女性」が「外国」の「性産業」で強制労働させられるというステレオタイプが存在しますが、実際は「男女」を問わず、子どもも含む「全ての年代」が「国内外」にて、工事現場での労働者や路上の物乞い等の強制労働から臓器提供まで「様々な形態で搾取」されています。そこで、近年はより効果的な防止策として、ターゲットを絞った啓発活動(例:男性の目を引く広報等)、そして犯罪から弱者を守る対策として地方コミュニティの活性化に資する活動(例:小規模事業立ち上げへの資金提供等)、に力を入れています。
私はAEとして、主にウクライナ、モルドバ、ベラルーシの3国における人身取引対策長期プロジェクトを担当しました。具体的には、資金提供者(ドナー)であるデンマーク外務省と実施団体(各国のIOM事務所を含む国際機関や現地のリーダー的NGO等、計10団体)間の連絡調整役を行いました。主な業務としては、各団体との事業実施契約作成から、活動計画や予算、年間報告書の管理・とりまとめを行い、必要に応じてドナーと協議しました。この他、実施団体が集う会議やドナーによる事業評価モニタリングの調整などを行っていました。

この調整役は多様なバックグラウンドを持つ関係者間で莫大な量の情報交換を行うことからコミュニケーションに苦労しましたが、日本での社会人経験から学んだ「読み手への配慮」が大いに役立ちました。例えば、長い文章は箇条書きにし、返信に時間がかかる場合はその旨をまず伝えるなど、日本ではごく当たり前のことですが、この心がけを保つことによって、誤解を避け、早い合意に導くことが可能となりました。任期の終わりには、この心がけが、担当事業の関係者間だけではなくキエフ事務所の人身取引対策部全体の「文化」に良い意味で日本的な風を吹き込めたとの評価も得ることができました。

業務のほとんどは地道な事務作業の連続でしたが、大規模な地域プロジェクトの準備段階(ニーズ調査)から事業完了報告までマネージメント行程を一通り経験したことは、私の大きな財産となったはずです。

また、上記担当事業では、人身取引の被害者へのインタビューや支援内容の調整、警察・司法・教育・福祉関係の政府機関職員やNGOスタッフへの研修のコーディネーションなどについては、経験豊富で専門知識もあり、現地語が話せる現地スタッフに業務を全面的に依頼し、私は進行状況を随時、確認する役割に徹せざるを得ませんでした。

しかしながら、幸運なことにブリティッシュ・カウンシル・ウクライナ事務所が行う人身取引研修の講師育成事業の外部評価員として、地方都市を周る機会に恵まれました。その際、事業を通じて研修手法を身につけた現地NGO職員による入管・警察職員への研修を見学し、講師・受講者双方と意見交換を行うことができました。研修では、問題の理解と被害者に接する際の留意点などを短編映画やグループワークを交えて教えていますが、1日のカリキュラムを通じて、受講者の問題に対する態度がみるみる変化してゆく様子を目撃しました。元入管職員として受講者の心の変化がより理解できるからこそ、その変化に深く感動しました。

 

また、IOMキエフ事務所と人身取引啓発活動で提携しているアメリカ政府の平和部隊(Peace Corps)ウクライナ事務所との連絡窓口をさせていただきました。平和部隊は、日本の海外青年協力隊に近い人材派遣制度でウクライナ全土の小さな村々に常時200名以上のボランティアが派遣されています。新しいボランティアが着任する際や地方に散らばっているボランティアがキエフに集う機会に、彼らの人身取引に関する理解を深め、赴任先の村々でのコミュニティ内で防止活動を実施してもらえるよう、講習会を行いました。現地語が不自由な私にとって、平和部隊への講習会は英語のみで草の根活動に直接、繋がることのできる貴重な場でした。

振り返ると、2年間は本当にあっと言う間でした。持てるスキルを総動員し、チームワークなど、特に必要なものを消化・強化しながら、IOMという組織や地域の文化をひも解き、学んで駆け抜けたという気分です。

希望が叶い、AEの任期後もIOMに勤めることができることになりましたが、次の任地でも何事も恐れず新しいことを学び、よきチームの一員として現地の状況の改善によりよく貢献できる自分でありたいです。
*1:アソシエート・エキスパート(AE)
将来、国際機関の正規職員を志望する若手日本人を、外務省の経費負担により一定期間(原則2年)国際機関に派遣することで、専門知識を深め、勤務経験を積む機会を提供する制度。詳細は、外務省国際機関人事センター ウェブサイト(http://www.mofa-irc.go.jp/)を参照ください。