ネパール - 移民・難民の健康支援を通して 2014年3月

ネパール - 移民・難民の健康支援を通して 2014年3月

移民の保健、特に移動を控えた移民・難民の健康診断を行い、出発前に必要な治療をすることは、移民自身にとっても、また国際的な公衆衛生上も非常に重要です。ですので、IOMには、医師や看護師など、保健医療の専門家が多数在籍しています。

現在IOMに在籍する唯一の日本人医師で、IOMネパール・カトマンズ事務所で、Migration Health Physicianとして働く高橋香さんに話を聞きました。

ネパールでの仕事内容について教えてもらえますか?

--- 2011年からMigration Health Physicianとして、IOMネパールのカトマンズ事務所で働いています。IOMは“Healthy migrants in healthy community”の理念の下、ネパール政府が移民の方々に必要とされている健康サービスが提供できるよう支援しています。よい生活を求め移動することは基本的人権のひとつですが、移住先で不当な扱いをうけたり、医療機関にアクセスできず健康を害することも少なくありません。特にネパールでは海外からの送金がGDPの20%以上に相当するなど移民の方々はネパールの貧困削減と国の発展に大きく貢献しており、そのような移民の方々を支援することは国の発展につながります。

私が主に担当しているのは、ブータン難民の第三国への再定住プログラムと、移民の公衆衛生に関わる仕事です。ブータン難民は20年ほど前に10万人以上ネパールに逃れてきて、ネパール東端のキャンプで暮らしています。IOMは2007年からUNHCR、ドナーと密に連携しながら計8カ国にブータン難民の再定住をおこなってきました。私が所属しているMigration Health Divisionでは、受け入れ各国のプロトコールに従い健康診査行い、無事に定住先まで移動できるよう、各部門と連携しながら様々な保健医療に関わる対応を行っています。週300 - 400人のペースで難民の方々を第三国に安全に送り出してきましたので、さまざまなドラマや困難があります。

2014年3月現在、9万人近くの再定住が完了しましたが、初期のころは健康な方が先に定住し、今では半身不随、透析、精神疾患、高度の慢性呼吸不全の方等のなんらかの医学的アレンジが必要な方の割合が高くなり、今ではおおよそ半分近くのフライトは医師が付き添うメディカルフライトになっており、酸素や緊急医薬品など必要な医療アレンジを行っています。ですので、難民の方々がキャンプから移動してきてカトマンズで滞在する施設では、日中や夜も看護師が常勤し24時間体制で対応しています。出発直前に、出産の陣痛が始まったり痙攣や盲腸炎を発症し、夜中に病院搬送することもあります。また移動中や再定住後に公衆衛生的にほかの人に脅威を与えるような感染性疾患は送り出すことができませんので、出発前に全員に寄生虫駆除をおこない、赤痢やA型肝炎がキャンプで流行した場合には予防的措置やスクリーニングを強化しています。

もともと日本で医療に従事していたのに、なぜ日本ではなくIOMで働こうと考えたのですか?

--- 日本では地域医療に従事していましたが、学生時代から難民の問題や人道支援の活動に興味を持っていましたので、キャリアチェンジするのは大変でしたが自分の専門性が生かせ、また難民支援に関わるIOMに応募したのは自分の中では自然な流れでした。偶然ですが医学生時代にあるNGOのスタディーツアーでブータン難民キャンプを訪れたことがあります。訪れる前の悲惨なイメージに反して難民の方々の明るく元気な逞しさを知る一方で、難民として生きることの大変さやキャンプ周辺村落に与える様々な影響などを知り難民支援の難しさを感じました。キャンプ訪問から10年以上たった今、その難民の方々が第三国で新生活を始める支援の仕事をすることができて本当に嬉しいですしIOMとのご縁を感じています。

国際機関で働くことの日本で働くこととの違いと、仕事のやりがいはなんでしょうか?

--- 日本で臨床医として働いていたときは、整った医療システムの中で患者さんと一対一で病気と向かい合う日々でしたが、IOMの仕事は臨床的側面に加え、ネパール保健省やアメリカ疾病予防管理センター(CDC)やドナーの方々と密に連携をとり、医療チームをまとめ、難民・移民の方々の健康に貢献するという仕事は臨床とは違ったダイナミックさや医療を超えた視点が求められ、学ぶことの多い日々です。

必要医療品に加え電気・水不足に陥ったり、暴動が起きてスタッフが職場に来られなかったり、国際的価値観の違いや、コーディネーションに時間がかかったりと医療以外の困難の方が多いです。ですが素晴らしいチームメンバーに支えられ、また出発前の高揚し希望に満ちた難民の方々を送り出すときは、本当にうれしくやりがいを感じる瞬間です。

日本の医大生、医療従事者で国際機関を考えている方に何かアドバイスはありますか?

--- 自分の経験ですが学生時代は一人リュックを背負っていろんな途上国を自分の目で見て歩いて貧困とはなんだろうとか自分にできることは何だろうと考える時間をとおして今の自分の軸ができましたし、日本の常識では考えられない事態にも慣れたように思います。最近はいろんな海外の国際保健関連の研修等もありますが、卒後は病院医療漬けですから学生時代は専門外の見聞もひろめることをお勧めします。