ソマリア お水事情 2014年5月

澄み切った青空に、コバルトブルーの海、新鮮なロブスターに、食べ応えたっぷりのラクダ。
そんな光景に巡り合える、ここソマリア。

家族は離散し、銃弾やロケット弾が空を舞い、飲めず食えずのまま500km以上を裸足で彷徨い歩く。
そんな環境を今でも生き抜く人々がいる、ここソマリア。

人口の20%にも及ぶ数の人々が、紛争や自然災害により住み慣れた家を離れ、過酷な環境下で暮らしています。2012年に21年ぶりとなるソマリア新政府が樹立され、新しい一歩を生み出していくのではと機運が高まったのも束の間、2013年6月19日には首都モガディッシュにある国連施設がテロの襲撃を受け、大切な私の仲間も命を奪われました。

私は2012年よりIOMソマリアの保健衛生部署( MHD: Migration Health Division)で水衛生専門官(WASH Specialist)として勤めています。最初の1年間は平和構築人材育成事業の研修生として派遣していただきました。ソマリアの治安、特に南部の政情が不安定なため隣国のケニアからの出張ベースで仕事をしています。多種多様なIOMの業務のうち、水衛生支援の手法と今後の展望を、国の様子とともにご紹介させていただきたいと思います。

ソマリア 防弾チョッキ着用必須のソマリアの首都モガディッシュにて同僚と©IOM2014

言わば群雄割拠の日本の戦国時代のように慢性的な紛争が続いている国、ソマリア。村ごとに、我こそはこの地域の大統領でござる、と名乗り出て独立を宣言することも珍しくありません。装甲車に囲まれて首都モガディッシュを周ると、今でも崩れ落ちた建物群が広がり、荒廃した街並みから長期的に続く紛争の影が至る所に垣間見られます。


一方で絵に描いた様な美しい街並み、これは1980年代まで確かにそこにあったソマリアの首都モガディッシュの姿です。現在はテロリストや海賊が蔓延り、氏族間での争いも絶えず、2011年の大干ばつの爪痕も癒えていない一方、携帯電話もインターネットも至る所で繋がり、移動中の車のカセットテープからは時折、日本の演歌が流れてくるという何とも不思議な国です。

ソマリア 荒廃した首都モガディッシュの街並み © IOM 2014 (photo: Koji Kumamaru)

 

ソマリア 長期的な紛争が起こる前の首都モガディッシュの街並み (首都にて入手した絵葉書より)

世界の中で母子死亡率が最も高い国、ソマリア。肺炎や麻疹、マラリアに加えて水系感染症、下痢も大きな死亡要因に一つで、実際に清潔な水を利用できる人の数はソマリア人口の30%にも満たない状況です。

新しい政府が発足されたからといって、一朝一夕で医療や水、トイレ、教育等の基本的な社会サービスが構築されることはありません。ソマリア国内に住む実に4割の人々が海外に住む家族親族からの送金を頼りに生計を立てており、家畜の海外輸出を中心とした歳入や国際社会からの支援よりも遥かに大きな額と言われています。

ソマリア 自然災害、紛争から逃れてソマリア国内避難民として暮らす母と子 © IOM 2014 (photo: Koji Kumamaru)

少しだけ専門的なお話となってしまいますが、ソマリアの多くの地域では地下水の塩分濃度が高く、飲み水には適していません。東アフリカの多くの国々では、井戸を掘削することにより地下水を利用することが一つの主要な手法なのですが、ソマリアは沿岸地域、そして内陸に入っても地質の影響により塩分濃度、硬度が非常に高く生活用水に適していません。そこで、IOMが行っている水事業は、ソマリア南部を流れる河川、ジュバ川とシャベレ川という表流水を処理して飲み水を含めた生活用水として国内避難民の方々、住民の方々が利用できる様に環境を整える支援をしています。

ソマリア 日本の浄水技術が生かされたIOMの給水施設により 清潔な水を利用できて笑顔を浮かべるソマリア避難民 © IOM 2014 (photo: Koji Kumamaru)事業の一つとして、水処理企業、日本ポリグル株式会社の凝集剤を用いて、水から濁度(細粒子)を取り除きキレイにし、そして塩素消毒も行う簡易水処理施設を構築することで首都モガディッシュを含め、5つの地域で毎日10万人以上の人々に清潔な水を提供する支援をしています。また、トイレ施設の支援や手洗い普及のための衛生推進活動も同時に行うことによって、国内避難民やコミュニティの方々の健康改善を目指しています。子供たちに楽しんで手洗いをしてもらえる様に、株式会社サンリオのご協力を頂いてキティちゃんの小さなおもちゃを石鹸の中にいれる活動も進めています。ソマリア現地で石鹸生産をする女性グループと協力することにより、健康改善と生計向上を同時に図る取り組みです。

現地の治安が不安定で、場所によっては私自身も足を運べない地域もあるため、現地の事情に精通しているNGOs、そして地方政府や水衛生クラスターの他の団体とも調整をとりながら事業を行い、現地の資材、労働力を活用しています。そして長期的な紛争により過去の水質データがほぼ皆無な状況のため、調査研究を含めて水質分析・モニタリングの活動にも力を入れています。

私はIOMソマリアに勤める前は、英国の水衛生研究センターにPh.D.研究生として所属し、ザンビアとエチオピアでUNICEFとの共同水事業に参加していました。そういった国々と比較してソマリアで水衛生事業を進めることの難しさとして、ソマリアの人口の大多数を占める遊牧民、国内避難民を含めて移動する人々に対して事業を行うことへの柔軟性が求められること、そして治安により足を踏み入れることができない地域があるということが挙げられます。実際に、ある地域では氏族間の争いに火がつき、その余波からIOMが支援している水処理施設にも文字通り火がついたこともありますし、予定していた現場視察も政情の変化から突如中止、ということは数えきれないほどあります。

ただし、この困難は一方で長い目で見て、ソマリアという国の自力を身につける機会にもなり得るのではないかと私はひそかに期待しています。ドナーや国際援助の依存漬けになるのではなくその国で生活を営む人々が、または難民やdiasporaの方々も含めて紆余曲折を経たとしても、国の安定と発展を担う中心であって欲しいと願います。政府の関係省庁や国際・現地NGOsの人材育成トレーニングの実施、水質調査の為の機材提供も、自力を高めることを目的として私達IOMソマリアは行っています。

もちろん、未だ政府のサポートの届かない人々や地域があるのも事実ですので、人道支援が必要な局面はあると思います。けれども人道支援に携わる身として、常に出口戦略(exit strategy)を念頭において水衛生事業に携わるように心がけています。その一端として、現在私たちは水衛生事業の現地民間セクターと政府との恊働、官民連携事業にも着手しています。無料のものなど何もない、という意識を持つ人々が多く、国内避難民として暮らしながらお金を出して水を購入している方々もいます。水を上手に活用できれば生活用水に限らず、農業や家畜を通して生計向上にも寄与できる可能性がありますので、その観点からも支援を考えています。また、私は元々、自然体系の中に水を位置づけて研究していた身ですので、中長期的には限りある資源としての水、という視点も含めた事業を実現したいと考えています。

人道支援・緊急援助というとどこか悲壮感が漂い、社会的に脆弱な立場の人々をサポートするといった印象を受けるかもしれません。もちろん、これは正しい面もあります。例えば、3歳児の小さな命が性暴力の被害に合うという到底許し難い出来事が国内避難民居住地域で起こることも事実です。そういった事態においては、心理社会的サポート(psycho-social support)のサービスを構築し、また未然に悲劇を防ぐ環境をIOMソマリアも支援しています。

一方、社会的に脆弱な立場な彼女ら彼ら=無力、では決してないと思います。むしろ、私なぞよりも遥かに力強く、忍耐強く、そしてのびやかに生きている方々に現地で多く出会います。そういった方々が兼ね備えている人間力を損なうことのないよう、私たちも常に配慮と敬意を見失うべきではないと思います。話が少し飛びますが、日本の東北大震災の地に支援に入らせていただいた際に、現地の方々が厳しい環境に立たされながらも、自分にできることはないかと周りを気遣う姿勢を多々拝見しました。恵みを直接施すことも時には必要だと思いますが、地域ごとに、また可能な限り一人ひとりの環境に合わせて支援のあり方を考えていく必要があると思います。だからこそこの仕事は難しく、だからこそ興味深いのだと思います。

ソマリア 国内避難民施設に小さな灯りをともす子供たちの笑顔 @IOM 2014 (photo: Koji Kumamaru)

 

ソマリア 国内避難民施設で支えあいながら暮らす母と子 @IOM2014 (photo: Koji Kumamaru)